日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI33] 計算科学が拓く宇宙の構造形成・進化から惑星表層環境変動まで

2022年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、コンビーナ:牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、コンビーナ:小久保 英一郎(自然科学研究機構国立天文台科学研究部)、座長:牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)

11:00 〜 11:15

[MGI33-07] 分子動力学シミュレーションで探るダストモノマー間相互作用

*吉田 雄城1,2小久保 英一郎2,1田中 秀和3 (1.東京大学、2.国立天文台、3.東北大学)


キーワード:微惑星形成、ダスト成長過程、分子動力学シミュレーション

原始惑星系円盤中のダストは惑星の材料であり、初期のダストはモノマーと呼ばれる0.1 μm程度の球と考えられている。そしてダストはモノマーが合体した集積体 (アグリゲイト)であると考えられている。cm 以下のダストは分子間力などによって直接合体成長し、kmより大きな物体は重力によって合体成長すると考えられている。しかし中間サイズの成長過程は未解明であり、直接合体成長による成長や何らかの不安定性による成長の可能性が研究されている。これらの研究には、サイズや密度などのダスト性質の進化を知ることは重要である。ダストの成長過程は数値シミュレーションや室内実験によって調べられている。そして数値シミュレーション研究では、モノマー間相互作用をJKR 理論と呼ばれる接触理論に基づいたモデル計算を行っている。
しかし、シミュレーション結果と実験結果の違いが指摘されている。モノマーやアグリゲイトの衝突実験では、跳ね返り限界速度が理論値より大きいことやその限界速度に温度依存性が存在していることが指摘されている (e.g., Poppe et al. 2020, Gundluch & Blum, 2015)。数値計算と室内実験の差異は、ダスト衝突過程の中で分子運動へのエネルギー散逸が原因であることが指摘されている (Krijt et al. 2013; Tanaka et al. 2015)。しかし、JKR 理論では分子運動によるエネルギー散逸などのミクロな物理を考慮していない。従って、ミクロの物理を取り入れたJKR 理論の拡張が必要である。
物理現象を分子レベルにまで還元して調べる方法として、分子動力学シミュレーションが有効である。分子動力学シミュレーションでは、物体を多数の分子で構成して、各分子の運動を解く方法である。分子動力学シミュレーションを用いて粒子衝突過程を調べた先行研究があるが、そのモデルパラメータは原始惑星系円盤内のダスト成長過程の範囲外である。原始惑星系円盤内では、モノマーサイズが0.1 μm程度であり、その衝突速度は100 m/s以下であると考えられている。しかし、先行研究では1-10 nmサイズの粒子を取り扱っていたり、高速度衝突現象を扱っている (e.g., Takato & Sen, 2014; Takato et al. 2015; Nietiadi et al. 2017)。また、これらの先行研究は特定温度における正面衝突を取り扱っており、斜め衝突現象や衝突過程の温度依存性は未だ調べられていない。
本研究は分子動力学シミュレーションを用いてモノマー衝突を再現することにより、モノマー間相互作用を明らかにする。まず我々は、モノマーのサイズや衝突速度、温度といった衝突条件や環境を変化させて正面衝突を再現し、モノマーに働く力を調べた。そして我々は、モノマーサイズが大きいほど跳ね返り限界速度が小さくなることを確認した。このサイズ依存性はTanaka et al. (2012)と一致している。次に衝突速度依存性について、高速度衝突ではモノマーの変形圧縮が大きく生じることが分かった。JKR理論では、初期状態における運動エネルギーがある量を超えると跳ね返ることが予想される。しかし、本研究ではさらなる高速度衝突において、JKR理論では起こりえない合体現象が見られた。この合体現象は、衝突エネルギーが内部運動や結合エネルギーへ変化することによって生じると考えられる。そして我々は、高温ほどモノマー間相互作用に大きな振動が存在することを発見した。これは、モノマーの結晶構造に起因するモノマー半径の振動モードであると考えられる。また、高温ほど最大圧縮時のモノマーの重心間距離が小さくなる振る舞いが見られた。これは、高温ほどモノマーが柔らかくなっていることが原因であると考えられる。