日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] ジオパーク

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、座長:大野 希一(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会事務局)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

16:00 〜 16:15

[MIS11-03] 室戸ユネスコ世界ジオパークが実施する環境・防災学習プログラム

*柿崎 喜宏1、中村 昭史1、遠枝 澄人2、勝田 真也3、高橋 唯4 (1.室戸ジオパーク推進協議会、2.室戸市まちづくり推進課、3.室戸市観光ジオパーク推進課、4.慶應義塾幼稚舎)

キーワード:防災、ジオパーク教育、教育ツアー

室戸ユネスコ世界ジオパークがある室戸市の土地は付加体からなり,地殻変動で形成された地質・地形(ジオ)を室戸の人々は巧みに利用して生活してきた.一方,室戸は南海トラフの直近に位置し,数十年〜百数十年に一度は必ず南海トラフ地震に遭遇する宿命を帯びている.室戸ジオパークでは「変動帯に生きる」をテーマに,自然をうまく利用して自然と共存してきた人々に学び,持続可能なまちづくりを目指している.その一環として,地震に備えた防災の取り組みを社会と共有し,青少年の防災意識の向上に寄与することを目的として,教育ツアープログラムである「環境・防災学習プログラム」を2020年10月より実施している.
このプログラムは,2022年1月までに,高知県を中心に,広島県,兵庫県,大阪府の18校 (小学校7校, 中学校8校, 高校2校),合計1,038人の児童・生徒が受講した.受講の申し込みには電話かメールで室戸ジオパーク推進協議会事務局へ直接連絡するか,あるいは高知県東部観光協議会や旅行代理店を通す方法がある.料金は学齢によらず受講者一人あたり2,000円である.児童・生徒は学校側が手配したバスで室戸市に来訪し,室戸岬,津波避難シェルター,ジオパークセンターの3ヶ所を巡る.ガイドや施設の制約から,クラスごと(約30人)にグループ分けして案内対応している.複数のグループをうまく回転させるために巡る順番は前後する場合があるが,半日もあればコースを一巡可能である.
室戸岬には40分程度滞在し,タービダイトの露頭や海成段丘の地形,離水地形を見学する.ひとグループに1名のガイドがつき,地形と自然について解説する.この見学は室戸の自然の成り立ちと地震・地殻変動の関わりについて理解してもらうことを目的としている.
津波避難シェルターには約30分間滞在し,ガイドから津波の遡上高,シェルターの構造と利用法 津波発生時の避難,非常時の物資 (非常食,毛布など)について解説を受ける.ここでの見学は,室戸市の津波への備えについて紹介することを目的としている.
ジオパークセンターでは地球科学系の専門員から約30分間の講話を聴講する.専門員は,地震と土地の隆起,河川の氾濫と平野を例に,災害と自然の恵みの関係について解説する.さらに,受講者の地元のジオと関わりの深い岩石試料や簡単な実験装置を展示し,岩石や地層の性質が災害を引き起こすとともに,その土地に恵みを与えていることをジオパークの視点から解説する.
講話の後は引率教員に事後学習用のプリントを提供する.プリントは,地形図やハザードマップを参照して,地元のジオ,将来起こる災害,付近の避難場所・避難経路を再認識してもらうことを意図して作られている.専門員の講話とプリントの提供は,児童・生徒に自然が災害と恵みの表裏一体であることを伝え,地元の自然に理解と愛着を持ってもらうと同時に,災害時に的確に避難するための情報を入手してもらうことを目的としている.
この教育プログラムの最終的な目的は,人間と自然との共存,自然を正しく恐れ、上手につき合うことの重要性を青少年に理解してもらうことにある.防災の根底にはジオパークの理念と共通するものがあり,ジオパーク活動と防災教育は親和性が高い.そして防災教育はジオパークの社会的使命の一つでもある.国内のジオパークの数が増え,社会にジオパークの存在が浸透するにつれて,このような教育プログラムが求められる場面がさらに多くなるだろう.