日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

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[M-IS15] 山の科学

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (34) (Ch.34)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、今野 明咲香(常葉大学)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

11:00 〜 13:00

[MIS15-P04] 安倍川左支タチ沢における大谷崩起源の崩壊物質および堰き止め湖沼堆積物の層序と年代

*木村 恵樹1苅谷 愛彦2 (1.専修大学・院、2.専修大学)

キーワード:大谷崩、斜面崩壊、14C年代、堰き止め湖堆積物

1. はじめに
大谷崩は安倍川源流の大規模斜面崩壊である.大谷崩はCE1707(宝永四年)の宝永地震(M8.4)の際に発生したとする意見が多いが,それ以前から崩壊が繰り返し発生していたとの主張もある.安倍川源流の各支流には,大谷崩から供給された土砂による堰き止め湖沼堆積物が露出する.本発表では安倍川左支タチ沢でみられる崩壊物質や堰き止め湖沼堆積物の層序と年代を報告し,大谷崩がCE1707以前から発生していた可能性を再検討する.
2. 調査地域の地形・地質
安倍川・タチ沢合流点付近には厚い岩屑からなる堆積・侵食段丘面群が発達する.岩屑の供給源である大谷崩の周囲には砂岩・頁岩が広く分布するが,タチ沢流域には砂岩・頁岩のほかに玄武岩と石灰岩も露出し,岩屑の供給域判定に有用である.
3. 方法
 一般踏査と14C年代測定を実施した.
4. 崩壊物質と堰き止め湖沼堆積物の層序
 安倍川・タチ沢合流点から約0.5 km上流の右岸に崩壊物質と堰き止め湖沼堆積物からなる露頭がある(図).露頭直下の現河床に砂質シルト層(SL)が露出する.SLは現河床から3.90 m深まで続く(下限未詳).SLの上に層厚4 mのシルト・砂礫互層(SG)が整合で載る.砂礫層は玄武岩や石灰岩を含み,タチ沢由来と判断される.SGの上位に砂岩と頁岩のみからなる層厚3 mの不淘汰粗粒岩屑層(DF)が整合で載る.その上面は露頭上端の侵食段丘面である.この面のさらに高位(北側)にも別の段丘面が数面あり,それらの中で最高位の面は安倍川沿岸に発達する高位面と一連である.DFと安倍川本流沿岸の段丘面をなす岩屑は層相が酷似し,礫種も同一であることから,DFは大谷崩崩壊物質であると判断される.
5. 堆積年代
 SLの現河床下2.82 m深(試料A)と0.80 m深(B)の木片は,それぞれCE1646以降とCE1444~1620を示す(IntCal20;2σ).SLの現河床付近の2点の木片(C/D)は,それぞれCE1479~1635とCE1644以降である.SG最上部の木片(E)はCE1660以降である.A~Eの年代が逆転した原因は検討中であるが,新しい値を示すAやD,Eを採用するとSLやSGはCE1600年代半ば以降の堆積物と判断できる.ただしSLやSGの年代がCE1707の前か後かは,14C法の原理や木片の年輪数の制約により判別できない.またDFから試料は見いだせなかった.
6. 堰き止め湖沼堆積物の形成年代と大谷崩の初生時期
 SLとSGは位置・高度や層相(上方粗粒化),礫種からみて,安倍川本流への出口が塞がれタチ沢に生じた堰き止め湖沼堆積物と判断される(注:堰き止めを生じさせうる局地的斜面崩壊は露頭と合流点間や,それらの周辺に存在しない).DFが大谷崩からCE1707に供給された崩壊物質だとしても,その下位に厚さ7.9 m以上の堰き止め湖沼堆積物が存在することは,CE1707以前から安倍川本流が埋積され,タチ沢に堰き止め湖沼が形成されていたことを示す.したがって,本・支流の河況に著しい影響を及ぼす大谷崩の初生時期はCE1707以前であると考えられる.