日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (34) (Ch.34)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、今野 明咲香(常葉大学)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

11:00 〜 13:00

[MIS15-P10] 北アルプスの高山・亜高山地域における渓流水の水質特性と水質形成過程

*行廣 真1榊原 厚一1鈴木 啓助1 (1.信州大学)


キーワード:高山・亜高山帯、渓流水、水質、地形・地質特性

我が国の国土を特徴づける山岳域は水資源の主要な涵養域であるため,山岳域における水循環系の理解は重要である.これまでの多くの研究において,源流域における渓流の水質は,流域を構成する地質と地形を含む場の条件に支配されることが明らかになってきた.しかしながら,造山作用により地形が急峻な山岳域における水循環系は,調査・研究が十分に実施されておらず,環境水の水質形成過程を含め,未解明な部分が多い.そのため本研究では,北アルプスの高山・亜高山帯を対象とし,渓流水の水質特性とその地形・地質条件との関係を明らかにすることを目的とした.現地にて渓流水試料を採取し,主要無機溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比を分析・解析することで次のことが明らかになった.
渓流水の採水標高と総溶解固形物(TDS)には有意な負の相関があった.採水標高と関連のある地形的特性(流域面積,流域高低差,最大流路長,流域斜度等)からその要因を検討したが,強い相関は見られなかった.一方,渓流水の滞留時間情報の代わりとなりうる流下斜辺長を算出し検討すると,TDSとより強い相関があった.このことは渓流水の溶存物質量は流域の地形特性よりも,降水後に地質と接触する時間により強く影響していることを示唆していると考えられた.
水質特性を特徴づける陽イオン濃度と流下斜辺長の関係を地質ごとに分析した結果,海成堆積岩の試料では他の地質と比べナトリウムイオンとマグネシウムイオンの濃度が高く,試料により濃度にばらつきが見られた.この結果は,海成堆積岩の陽イオン組成は粘土鉱物による陽イオン交換に支配され,流域によって溶出源となる粘土鉱物が偏りをもって堆積していることを反映していると考えられた.これは,海成堆積岩の形成過程において侵食,運搬,堆積作用が選択的に起こるため地質が不均一になりやすいことに起因している.また渓流水試料のカルシウムイオンと重炭酸イオンが方解石の風化を示唆する組成を示した.さらに,海成堆積岩の約半数と苦鉄質岩の試料を除けばマグネシウムイオン濃度は重炭酸イオン濃度と線形の関係にあることからマグネシウムイオンの溶出源も方解石であると考えられた.これらのことから,高山・亜高山地域の渓流水質は他の地域と同様に,流域の地質や岩石の特徴を反映していることが明らかになった.