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[MIS16-P02] 様々な密度と斜面角度の重力流を記述できる新浅水流理論の提案: 非定常2次元二層火砕流モデル開発に向けて
キーワード:重力流、浅水流理論、密度比、斜面角度、周囲流体抵抗、先端境界条件
地球表層では,火砕流,雪崩,混濁流,土石流といった様々な重力流が生じる.重力流は周囲流体との密度差を駆動力に地形面上を流動する現象であり,流れの密度(ρ)と周囲流体の密度(ρa)の比が重力流ダイナミクスを特徴づける最も基礎的なパラメータとなる.ρ/ρa=100–101の流れ(例えば,火砕流・雪崩の上部低密度領域や混濁流)は,周囲流体の抵抗による運動量損失のために流れの先端に厚く低速な球根状の頭部を形成するが,ρ/ρa≧102の流れ(例えば,火砕流・雪崩の下部高密度領域や土石流)は,周囲流体抵抗による運動量損失が無視できるほど小さいため厚さの薄い高速な楔状の頭部を形成する.このようなρ/ρaの効果(周囲流体抵抗の効果)を再現する既存の空間1次元浅水流理論(e.g., Ungarish, 2007, J. Fluid Mech., 579, 373–382)では,各位置x,各時間tにおける流れの厚さh(x,t)と速度u(x,t)を得るために質量・運動量保存式が与えられ,さらに流れの先端では,先端位置xN(t)を得るために,水平面上での水槽実験から得られた準定常的な力学的釣り合いの移動境界条件式(先端条件)が与えられる.先端条件は,流れ先端における周囲流体の抵抗圧が流れの静水圧による駆動圧と釣り合うことを仮定する.この既存理論はこれまで火砕流や混濁流などの空間1次元モデルに広く適用されているが,それには適用限界がある.例えば,地球表層で生じる重力流は複雑な地形上を流動するが,斜面による加速・減速の影響下において先端における準定常的な力学的釣り合い(先端条件)が満たされない場合がある.また,複雑地形の影響を評価するために既存1次元モデルを2次元モデルに拡張するにしても,移動境界条件を2次元空間上で考慮することに対して数値的難しさが生じる.本研究ではこれらの問題を解決するために,周囲流体抵抗を,準定常的な力学的釣り合いを仮定する移動境界条件式(先端条件)としてではなく,直接運動量保存式中でモデル化する新たな浅水流理論を提案する.
既存浅水流理論では周囲流体抵抗による運動量損失が準定常性を仮定した上で流れ先端でのみ考慮されるが,新浅水流理論では,準定常性を仮定せず,流れの先端だけでなく先端よりも内側における運動量損失も考慮される.新理論と既存理論の違いが流れの振る舞いをどのように変え得るのかを調べるために,新理論と既存理論を任意の斜面角度のρ/ρa=2の1次元ダム・ブレイク問題に適用した.ここでは斜面角度に対して,(1) 0° (水平面),(2) -10° (上り斜面),(3) 10° (下り斜面)の3ケースについて考察した.(1)水平面のケースでは,既存理論は多数の実験との比較により検証されていることから,既存理論の結果に新理論の結果をフィッティングした.周囲流体抵抗の係数Cd=0.4と設定すると新理論結果は既存理論結果と概ね一致することが示された.新理論結果では,既存理論結果よりもわずかに流れの速度が小さく厚さが大きいが,これは先端よりも内側での周囲流体抵抗による運動量損失によって引き起こされる.(2)上り斜面のケースでは,新理論(Cd=0.4)の結果と既存理論の結果は,流動開始から流動途中までは概ね一致する.しかし,上り斜面による運動量損失のために先端速度が0となると,それ以降,新理論と既存理論の結果に違いが生じる.新理論は先端の逆流から静止に至るまでの複雑な振る舞いを再現できるが,先端の準定常性を仮定する既存理論はそのような複雑な状況に適用できない.(3)下り斜面のケースについても,新理論(Cd=0.4)の結果と既存理論の結果は,流動開始から流動途中までは概ね一致する.しかしながらその後,新理論の結果に限り,先端頭部後方の∂h/∂x<0となる局所的な領域において先端頭部と同程度の厚さの高まりが生じることが示された.これは,下り斜面による流れの速度増加が∂h/∂x<0の領域において周囲抵抗を増大させるために生じる.このような現象は,既存の3次元数値実験によっても観察されており,新理論はその観察事実を説明できると考えられる.今後は,新浅水流理論を適用する非定常2次元二層火砕流モデルを開発し,火砕流(特に上部低密度領域)ダイナミクスの地形依存性について評価したい.
既存浅水流理論では周囲流体抵抗による運動量損失が準定常性を仮定した上で流れ先端でのみ考慮されるが,新浅水流理論では,準定常性を仮定せず,流れの先端だけでなく先端よりも内側における運動量損失も考慮される.新理論と既存理論の違いが流れの振る舞いをどのように変え得るのかを調べるために,新理論と既存理論を任意の斜面角度のρ/ρa=2の1次元ダム・ブレイク問題に適用した.ここでは斜面角度に対して,(1) 0° (水平面),(2) -10° (上り斜面),(3) 10° (下り斜面)の3ケースについて考察した.(1)水平面のケースでは,既存理論は多数の実験との比較により検証されていることから,既存理論の結果に新理論の結果をフィッティングした.周囲流体抵抗の係数Cd=0.4と設定すると新理論結果は既存理論結果と概ね一致することが示された.新理論結果では,既存理論結果よりもわずかに流れの速度が小さく厚さが大きいが,これは先端よりも内側での周囲流体抵抗による運動量損失によって引き起こされる.(2)上り斜面のケースでは,新理論(Cd=0.4)の結果と既存理論の結果は,流動開始から流動途中までは概ね一致する.しかし,上り斜面による運動量損失のために先端速度が0となると,それ以降,新理論と既存理論の結果に違いが生じる.新理論は先端の逆流から静止に至るまでの複雑な振る舞いを再現できるが,先端の準定常性を仮定する既存理論はそのような複雑な状況に適用できない.(3)下り斜面のケースについても,新理論(Cd=0.4)の結果と既存理論の結果は,流動開始から流動途中までは概ね一致する.しかしながらその後,新理論の結果に限り,先端頭部後方の∂h/∂x<0となる局所的な領域において先端頭部と同程度の厚さの高まりが生じることが示された.これは,下り斜面による流れの速度増加が∂h/∂x<0の領域において周囲抵抗を増大させるために生じる.このような現象は,既存の3次元数値実験によっても観察されており,新理論はその観察事実を説明できると考えられる.今後は,新浅水流理論を適用する非定常2次元二層火砕流モデルを開発し,火砕流(特に上部低密度領域)ダイナミクスの地形依存性について評価したい.