日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 古気候・古海洋変動

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (30) (Ch.30)

コンビーナ:長谷川 精(高知大学理工学部)、コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、コンビーナ:山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)

11:00 〜 13:00

[MIS18-P09] IODP U1422 地点堆積物中の砂含有量と泥鉱物組成に基づく北部日本海堆積環境の復元

*西條 竜碧1芦 松2入野 智久2 (1.北海道大学環境科学院地球圏科学専攻、2.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

日本海の堆積物はその堆積環境によって堆積相や粒子組成が変化する。特に日本海の鉛直循環の深度や強度は、堆積環境に大きく影響する。鉛直循環により換気(ventilation)が発生すると、深海は酸化的環境になり、有機物が酸化分解されるため堆積物は明るい色になる。一方で降水による表層水塩分低下や対馬海峡からの高塩分の海水の流入が少なくなることによって鉛直循環が弱まって換気を妨げられたり、活発な一次生産によって有機物の供給量が多くなり酸化分解しきれなくなると暗い色の堆積物が形成される。日本海ではこの明暗互層が東アジア夏モンスーン(EASM)強度に応じて形成されていることが知られている。ただし、特に海水準が低下した時期においては日本海の成層化にEASMが与える影響は小さくなる。東アジア冬モンスーン(EAWM)も日本海表層を冷却し海氷を生産することによって高密度の海水を形成し換気を促すため堆積環境に影響を与えると考えられている。しかし研究事例が少なく、EAWM強度の変動、日本海への影響共に未解明な部分が残されている。そこで、本研究では、海氷由来の砕屑砂(IRD)を用いてEAWMの変動を捉えるとともに、鉱物組成分析をもとにした供給源と海底での環境の変化と合わせて、EAWMの日本海深層環境への影響を評価することを目的とする。
本研究では、日本海北部のIODP U1422地点の堆積物を使用した。堆積物は63 µmのふるいを用いて砂礫粒子と泥粒子に分画した。砂礫粒子は実体顕微鏡の観察を経てIRDの量を求め、泥粒子はXRDを用いて鉱物組成を調べた。これらのデータと先行研究による堆積物の物性のデータから堆積環境及び過去68万年間の日本海を取り囲む環境変動を評価する。
その結果、粘土鉱物、石英、長石類のような砕屑性鉱物の量比は、硫化鉱物、炭酸塩鉱物、非晶質物質(主に生物源opalからなる)による希釈変動を見せた。硫化鉱物、炭酸塩鉱物は400 ka以前において稀に多産した。砂サイズのIRDは氷期に多く間氷期に少なくなりながら周期的に変動し、400 ka以前に比べ以後はその振幅を増大させた。一方、泥サイズ粒子中の砕屑鉱物については400 ka前後で量比変動の振幅は変化しなかった。
続成起源および生物起源物質による希釈の影響を取り除いて、泥サイズ粒子の起源を探索するために各砕屑性鉱物と石英との比をとってその変動を検討したところ、1) 海水準変動と同パターン・逆位相の変動を示す(クロライト + カオリナイト)/石英 および イライト/石英、2) 海水準変動と同パターン・同位相の変動を示すスメクタイト/石英 および 灰長石/石英、3) 明確な変動パターンを示さないがよく似た変動パターンを持つカリ長石/石英 および 曹長石/石英、の3パターンに分類された。また、IRD/石英の変動は海水準変動と細部では一致しないが、低海水準期に大きくなる傾向を示した。それぞれの原因としては、1) 氷期に強いEAWMによって細かい粒子の供給量が増加、2) 間氷期にEASMがもたらす降水によって日本列島から水で運搬される砕屑物の量が増加、3) 石英と起源を同じとするが、この中のカリ長石, アルバイトに富む供給源の乾燥・湿潤といった環境変動で供給量が変化、が考えられる。