日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2022年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、コンビーナ:相木 秀則(名古屋大学)、座長:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

16:30 〜 16:45

[MIS21-05] 寒冷渦における維持過程としての渦間相互作用:2021年7月の欧州における事例

*山本 晃立1伊賀 啓太1山崎 哲2 (1.東京大学大気海洋研究所、2.海洋研究開発機構)


キーワード:寒冷渦、渦運動エネルギー、流跡線解析、維持過程、非断熱的効果、高・低気圧非対称性

2021年7月12日〜15日頃の欧州中部における大雨により,広い範囲で洪水が発生し200人以上が死亡した.この大規模な災害は上空に寒冷渦(以下“C1”と略記)が停滞したことが原因の1つとされている.C1は7月11日頃にトラフの切離を通して発生し,19日頃にかけて明瞭な形での持続が確認できたが,その期間の前半にあたる12日頃に一度別の寒冷渦(以下“C2”と略記)と併合し,その後14日頃に再切離した.

まずC1を囲む固定領域をとり,12日〜14日を含む期間で渦運動エネルギーの収支解析を行った結果,C2は再切離以降のC1の維持に寄与するエネルギーの供給を担っていることが示唆された.続いて14日00UTCにおいてC1の内部にトレーサを設置し,3日間遡って後方流跡線解析を行ったところ,C2に由来する高渦位のトレーサが約12%存在していることを確認した.この流入したトレーサにおける渦位の有意な減少が,解析期間中C1に留まっていた他のトレーサに比べて示唆された.渦位が顕著に減少する時間帯はC2からC1へトレーサが流入する時間帯と概ね一致しており,流入過程において場の非断熱的効果が顕著に働いていたことを支持している.次に11日00UTCにおいてC2の内部にトレーサを設置し,3日間にわたり前方流跡線解析を行ったところ,一部のトレーサがC1の北西側から流入し,C1の縁辺に沿って反時計回りに移動していた.第一推定値を用い,流入したトレーサに沿って上記の非断熱的効果の内訳および時空間的分布を定量的に診断した.

以上の結果により,C2がC1の維持に対して渦間相互作用を通してエネルギー的に重要な役割を担っていることを明らかにした一方,特にC2からC1への流入過程において非断熱的効果も無視できないことも見出した.講演では,高気圧における渦間相互作用に立脚した維持過程の先行研究との非対称性も議論する.