11:00 〜 13:00
[MIS24-P04] 長野県松本市の中部中新統別所層より産出したチューブワーム化石
キーワード:冷湧水、チューブワーム、中新世、化石化作用
チューブワームは,シロウリガイ類などの化学合成二枚貝類とともに熱水・湧水環境の景観を特徴づける生物として注目を集めてきた.しかしながら,その化石記録は二枚貝類に比して少ない.本邦でもこれまでに報告されたチューブワーム状化石の産地は7つにとどまっており,100を超えるシロウリガイ類化石のサイトに比べると著しく少ない.今回,長野県松本市十二沢から採取された中部中新統別所層由来の転石よりチューブワーム化石が認められた.なお,十二沢ではシロウリガイ類化石 Adulomya uchimuraensisが密集あるいは散在する石灰質泥岩の転石も報告されているが,今回のチューブワーム化石の転石も含めいずれについてもそれらのもととなる露頭は確認できていない.
チューブワーム化石を含む転石は長軸約20 cmの枕状で,ドロマイト化した泥質コンクリーションからなる.ドロマイトの安定同位体比はδ13Cが+4.43〜5.58‰,δ18Oが-1.68〜-2.49‰である.転石表面ではクリーム色(研磨断面では黒色)を呈するドロミクライト優勢な破砕礫あるいは流動変形した岩片と,その周囲の黄褐色泥質優勢部とが不規則に混合する岩相を呈する.両者の境界は漸移的な場合もあれば,明瞭な境界をもって指交関係を示す場合もある.また周囲の黄褐色泥質優勢部には、固結時の堆積収縮によると思われるジグソー状の裂開が発達し,その間隙をドロミクライトが充填している.なお,別所層のシロウリガイ類化石密集石灰岩にはしばしば空隙を充填する透明方解石が発達するが,このチューブワーム化石を含む転石では長片1cm弱の破片となって泥質基質に混在するか,細片となって火山ガラスとともに集合し基質中にパッチを形成する.これらのことからチューブワーム化石を含む泥質堆積物は固結するまでの様々な段階において繰り返し破砕・流動作用を受けたことがうかがえる.
チューブワーム化石は直径 3〜4 mmで内部は石英で充填される.転石表面で確認できる限り、最大長27 mmに達し、ゆるやかにカーブする。50本以上のチューブが認められるが,1本を除きいずれも転石の長軸面に垂直な方向に伸長している。チューブは互いに連結せずドロミクライト優勢部に基質支持の状態で産出し,黄褐色の泥質部には連続しない。しばしば直径数cmのパッチを形成する。これらのことから,チューブワーム化石は自生的な産状を示していると考えられる.
チューブ壁面外壁を構成していた物質や外面彫刻は肉眼では認められないが,鏡下での観察では外壁の一部に厚さ10μm以下の薄い有機質膜が残存していることが確認された.なお,チューブ本体の壁由来と思われる石灰質な残存物は一切認められなかった.チューブ横断面の輪郭は不規則に歪んでいるが,それに応じて有機質膜も変形している.またチューブ内の空洞を充填している石英は段階的に小ドーム状に成長したカルセドニーからなるが,カルセドニーの成長によって有機質膜が内壁から剥離したり変形を受けている.これらのことから,チューブの壁はフレキシブルな有機質膜であったことが示唆される.有機質膜からなるチューブ状生物で熱水・湧水環境に生息する分類群としては,シボグリヌム科やツバサゴカイ科があげられる.
ドロマイト主体のコンクリーション中のシロウリガイ類化石は,しばしば炭酸カルシウムの殻がドロマイト化に先行して溶解し周囲の泥が癒着した結果,かすかにその輪郭しか認められない場合も多い.有機質なチューブもドロマイト化作用が進行すれば堆積収縮により変形・圧着してしまうと考えられる.今回のコンクリーションでチューブ化石が保存された理由は,ドロマイト化のコンクリーションに先行してチューブ内がカルセドニーで充填されたことが大きい.このようにどのタイミングでケイ酸塩の沈殿や置換が起きるのかが化学合成生物の化石作用においては重要な要素であるといえる.
チューブワーム化石を含む転石は長軸約20 cmの枕状で,ドロマイト化した泥質コンクリーションからなる.ドロマイトの安定同位体比はδ13Cが+4.43〜5.58‰,δ18Oが-1.68〜-2.49‰である.転石表面ではクリーム色(研磨断面では黒色)を呈するドロミクライト優勢な破砕礫あるいは流動変形した岩片と,その周囲の黄褐色泥質優勢部とが不規則に混合する岩相を呈する.両者の境界は漸移的な場合もあれば,明瞭な境界をもって指交関係を示す場合もある.また周囲の黄褐色泥質優勢部には、固結時の堆積収縮によると思われるジグソー状の裂開が発達し,その間隙をドロミクライトが充填している.なお,別所層のシロウリガイ類化石密集石灰岩にはしばしば空隙を充填する透明方解石が発達するが,このチューブワーム化石を含む転石では長片1cm弱の破片となって泥質基質に混在するか,細片となって火山ガラスとともに集合し基質中にパッチを形成する.これらのことからチューブワーム化石を含む泥質堆積物は固結するまでの様々な段階において繰り返し破砕・流動作用を受けたことがうかがえる.
チューブワーム化石は直径 3〜4 mmで内部は石英で充填される.転石表面で確認できる限り、最大長27 mmに達し、ゆるやかにカーブする。50本以上のチューブが認められるが,1本を除きいずれも転石の長軸面に垂直な方向に伸長している。チューブは互いに連結せずドロミクライト優勢部に基質支持の状態で産出し,黄褐色の泥質部には連続しない。しばしば直径数cmのパッチを形成する。これらのことから,チューブワーム化石は自生的な産状を示していると考えられる.
チューブ壁面外壁を構成していた物質や外面彫刻は肉眼では認められないが,鏡下での観察では外壁の一部に厚さ10μm以下の薄い有機質膜が残存していることが確認された.なお,チューブ本体の壁由来と思われる石灰質な残存物は一切認められなかった.チューブ横断面の輪郭は不規則に歪んでいるが,それに応じて有機質膜も変形している.またチューブ内の空洞を充填している石英は段階的に小ドーム状に成長したカルセドニーからなるが,カルセドニーの成長によって有機質膜が内壁から剥離したり変形を受けている.これらのことから,チューブの壁はフレキシブルな有機質膜であったことが示唆される.有機質膜からなるチューブ状生物で熱水・湧水環境に生息する分類群としては,シボグリヌム科やツバサゴカイ科があげられる.
ドロマイト主体のコンクリーション中のシロウリガイ類化石は,しばしば炭酸カルシウムの殻がドロマイト化に先行して溶解し周囲の泥が癒着した結果,かすかにその輪郭しか認められない場合も多い.有機質なチューブもドロマイト化作用が進行すれば堆積収縮により変形・圧着してしまうと考えられる.今回のコンクリーションでチューブ化石が保存された理由は,ドロマイト化のコンクリーションに先行してチューブ内がカルセドニーで充填されたことが大きい.このようにどのタイミングでケイ酸塩の沈殿や置換が起きるのかが化学合成生物の化石作用においては重要な要素であるといえる.