日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[M-IS27] 大気電気学:気候変動に関連した大気電気現象

2022年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)、コンビーナ:長門 研吉(高知工業高等専門学校)、座長:長門 研吉(高知工業高等専門学校)、芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)

14:00 〜 14:15

[MIS27-02] 東京都心および富士山頂における大気エアロゾル粒子の長期変動

★招待講演

*三浦 和彦1,2森 樹大1,3岩本 洋子1,4、上田 紗也子1,5五十嵐 博己1桃井 裕広1,6青木 一真1,7齋藤 天眞1,3伊藤 佳樹1,8大河内 博9加藤 俊吾10、和田 龍一11 (1.東京理科大学理学部、2.富士山環境研究センター、3.東京大学大学院理学系研究科、4.広島大学大学院統合生命科学研究科、5.名古屋大学大学院環境学研究科、6.千葉大学環境リモートセンシング研究センター、7.富山大学学術研究部理学系、8.北海道大学環境科学院、9.早稲田大学創造理工学部、10.東京都立大学都市環境学部、11.帝京科学大学生命環境学部)

キーワード:東京スカイツリー、富士山頂、長期変動、粒径分布、光学的厚さ、新粒子生成

1. はじめに
大気エアロゾルは太陽光を直接散乱吸収することで直接的に、雲凝結核になり雲の性質を変えることによって間接的に気候へ影響する。東京都心と富士山頂でエアロゾル粒子の粒径分布を長期観測したので、その変動について報告する。
2. 東京理科大学(新宿区神楽坂)での観測
新宿区神楽坂において高さ約60 mの17階建校舎の8階(地上約30 m)の窓から外気を吸引し,ポラック型凝結核計数器と拡散箱を組み合わせて全個数濃度(Ntotal)と50%カットオフ半径0.03 μm以上の個数濃度(N>0.03μm)を1980年1月から1987年12月まで測定した。さらに,2種の光散乱式粒子計数器(OPC)(RION, KC14; KC01)を用いて半径0.055 μm以上の個数濃度を7段階で測定した。NtotalN>0.03μmは冬高く夏低いという季節変化が見られた。また,9時ころ高くなるという日変化が見られ,交通量との関係も確認され,人間活動の影響が大きいことがわかる。一方,比較的大きい粒子は風速の影響が大きい。
1993年から1号館屋上でエアロゾルの光学的厚さ(AOT, 500nm)を測定した。1993年から2005年は多分光放射計(オプトリサーチ,MSR7000),2004年から2016年はサンフォトメータ(プリード),2014年以降はスカイラジオメータ(プリード,POM-02)を用いた。AOTは春から夏に高く,冬に低い季節変化を示した。1999年以降いくぶん減少傾向にあったが,2006年を境に大きく減少した。この原因の一つとして2003年10月に始まったディーゼル排ガス規制(新短期規制)と2006年4月に始まったディーゼル排ガス規制(新長期規制)があげられる。
3. 東京スカイツリー458 mにおける観測
東京スカイツリーの地上458 m(TST)において2016年6月から2018年9月まで,走査型移動度粒径測定器(SMPS, TSI 3034)を用いて直径約10 nm〜470 nmの粒径分布を測定した。総粒子数濃度は3年間で約3分の1に減少した。冬に数濃度が減少し,夏に高くなる傾向がみられた。夏季は南風が卓越し,船舶や工場等からの排出ガスや粒子がTST まで輸送されやすくなるほか,境界層高度が上昇するため,大気境界層内の影響を受けやすいからではないかと考えられる。核生成モード(10.4~24.6 nm),Aitkenモード(26.4~96.5 nm),蓄積モード(103.7~469.8 nm)とも同程度減少していた。新粒子生成(NPF)イベントは観測期間583日中,311回(53%)発生した。日中のイベントは97%,夜間のイベントは3%であった。神楽坂における地上22 m(KAG)の同様の観測結果ではイベントは259日中176回(68%)発生した。日中のイベントは83%,夜間のイベントは17%であった。TSTでは夏に多かったが,KAGでは明確な違いは見られなかった。これは,TSTは夏には境界層内に入ることもあるが,KAGではいつも境界層内に存在するためと思われる。
4. 富士山頂における観測  
富士山頂(3776 m)の旧気象庁測候所において,夏期のみであるが2006年〜2019年まで,直径約10~5000 nmの大気エアロゾルの乾燥粒子の個数粒径分布をSMPSとOPCを用いて測定した。総粒子数濃度は2006年〜2019年の14年の間に614 cm-3から227 cm-3まで減少し, 減少割合は核生成モードが最も大きかった。この傾向は, 夜間と日中ともに共通していた。
5. おわりに
エアロゾルの減少は地上付近、自由対流圏においても粒径にかかわらず観測されている。これは前駆ガスの減少によるところが多いと思われる。この減少は健康影響を考えると喜ばしいことではあるが,善玉としてのエアロゾル,すなわち気候への冷却効果という役割を考えると単純に喜ぶわけにはいかない。どのような成分のエアロゾルがどれだけ減少しているかを把握しエアロゾルの冷却効果を予測することで,二酸化炭素の削減などの温暖化対策をしなくてはならない。
謝辞 富士山頂での観測は認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」が富士山頂の測候所施設の一部を気象庁から借用管理運営している期間に行われた。東京スカイツリー458mでの観測は東京理科大学と防災科学技術研究所,国立極地研究所との共同研究により行われた。