11:00 〜 13:00
[MTT45-P04] 地面の運動に伴って励起される大気ラム波観測のための微気圧観測システムの開発
キーワード:M5Stack、ラム波、津波、トンガ火山、微気圧計、早期警戒
イントロダクション
ラム波は下層大気における平均的な音速でほぼ非分散に伝播する,地表面に捕捉された大気波動である.ラム波(約311m/s)は津波(約200m/s)より速く,東北地方太平洋沖地震と津波に伴うラム波事例(Arai et al. 2011)で示されたように,ほぼ非分散の特性により発生源での形状をよく保持することができる.したがって,ラム波観測のための広範な圧力観測網の整備は津波の早期警報に有用である.そこで本研究では,安価で大量設置可能なラム波観測用圧力観測システムを開発し,その精度を検証した.
開発したシステムの概要
圧力センサにはinfenion DPS310を使用した.これをマイクロコンピュータM5Stack BasicもしくはATOMLiteに接続する.マイクロコンピュータはI2C通信で一定時間ごとにDPS310に測定コマンドを送信し,生データを温度補正しSI単位の圧力データに変換し,UDP通信でLinuxサーバーに送る.Linuxサーバーはデータをテキストファイルとして保存する.マイクロコンピュータのクロックは1時間毎に情報通信研究機構(NICT)のNTPサーバーと同期される.マイクロコンピュータは1カ月ごとに自動で再起動され,長時間の動作で生じる内部タイマーのオーバーフローを防止する.大きさは10㎝程度で,1台当たりの設置費用は1万円以下である.
気圧センサDPS310はオーバーサンプリング(OS)機能を持つ.OS数が大きいほど測定精度が上がるが頻度が低下するため,OS数は適切に設定する必要がある.さらにこのセンサでは,OS数が小さい場合はデータビット数が小さくなり,量子化誤差が大きくなる.試験的な観測に基づいて,ラム波観測に最適な設定として,圧力OS数を8回,温度OS数を4回,測定頻度を35ms毎に設定した.
時刻と気圧測定の精度
開発した装置8台をテーブルの上に設置し,ドアの開閉によって圧力変動を起こし,各装置が観測した圧力信号を比較することで,本システムの相対的な時刻精度が20ms以内であることが確認された.圧力測定精度は時刻精度の検証のときと同じ設定で,各装置から得られたデータとすべての装置から得られたデータのアンサンブル平均との差として見積もった.その結果,圧力の測定精度はおおよそ0.5Paであることがわかった.これは,津波で励起されるラム波のような数十Paの圧力変動を容易に検出できることを示している.1台当たりの設置費用が低いため,1カ所に複数個設置して精度を上げることも可能である.
フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の事例
日本時間の2022年1月15日13時10分ごろ,トンガ諸島に近いフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山が噴火し,噴火によって発生した気圧変動が今回開発した複数のシステムで観測された.観測の時刻差は,この気圧変動がラム波であることと矛盾しない.詳細は当日の発表で示す予定である.
ラム波は下層大気における平均的な音速でほぼ非分散に伝播する,地表面に捕捉された大気波動である.ラム波(約311m/s)は津波(約200m/s)より速く,東北地方太平洋沖地震と津波に伴うラム波事例(Arai et al. 2011)で示されたように,ほぼ非分散の特性により発生源での形状をよく保持することができる.したがって,ラム波観測のための広範な圧力観測網の整備は津波の早期警報に有用である.そこで本研究では,安価で大量設置可能なラム波観測用圧力観測システムを開発し,その精度を検証した.
開発したシステムの概要
圧力センサにはinfenion DPS310を使用した.これをマイクロコンピュータM5Stack BasicもしくはATOMLiteに接続する.マイクロコンピュータはI2C通信で一定時間ごとにDPS310に測定コマンドを送信し,生データを温度補正しSI単位の圧力データに変換し,UDP通信でLinuxサーバーに送る.Linuxサーバーはデータをテキストファイルとして保存する.マイクロコンピュータのクロックは1時間毎に情報通信研究機構(NICT)のNTPサーバーと同期される.マイクロコンピュータは1カ月ごとに自動で再起動され,長時間の動作で生じる内部タイマーのオーバーフローを防止する.大きさは10㎝程度で,1台当たりの設置費用は1万円以下である.
気圧センサDPS310はオーバーサンプリング(OS)機能を持つ.OS数が大きいほど測定精度が上がるが頻度が低下するため,OS数は適切に設定する必要がある.さらにこのセンサでは,OS数が小さい場合はデータビット数が小さくなり,量子化誤差が大きくなる.試験的な観測に基づいて,ラム波観測に最適な設定として,圧力OS数を8回,温度OS数を4回,測定頻度を35ms毎に設定した.
時刻と気圧測定の精度
開発した装置8台をテーブルの上に設置し,ドアの開閉によって圧力変動を起こし,各装置が観測した圧力信号を比較することで,本システムの相対的な時刻精度が20ms以内であることが確認された.圧力測定精度は時刻精度の検証のときと同じ設定で,各装置から得られたデータとすべての装置から得られたデータのアンサンブル平均との差として見積もった.その結果,圧力の測定精度はおおよそ0.5Paであることがわかった.これは,津波で励起されるラム波のような数十Paの圧力変動を容易に検出できることを示している.1台当たりの設置費用が低いため,1カ所に複数個設置して精度を上げることも可能である.
フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の事例
日本時間の2022年1月15日13時10分ごろ,トンガ諸島に近いフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山が噴火し,噴火によって発生した気圧変動が今回開発した複数のシステムで観測された.観測の時刻差は,この気圧変動がラム波であることと矛盾しない.詳細は当日の発表で示す予定である.