日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] 口頭発表

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[M-ZZ48] 再生可能エネルギーと地球科学

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)、コンビーナ:野原 大輔(電力中央研究所)、コンビーナ:島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:宇野 史睦(日本大学文理学部)、座長:宇野 史睦(日本大学文理学部)

14:48 〜 15:03

[MZZ48-05] 太陽光・風力発電電力によるアンモニア製造を考慮した電力需給詳細運用モデルの開発

*神保 玲奈1山口 順之1 (1.東京理科大学)


キーワード:再生可能エネルギー、電力システム、水素

1.まえがき
わが国では2020年に2050年カーボンニュートラル実現に向けて[1],電力部門において太陽光・風力発電の主力電源化が期待されている。これら再生可能エネルギー電源の発電電力は,天候により左右されるため,再エネ余剰電力を水素やアンモニアに変換し,貯蔵,さらには発電に使用することが期待されている。既に,水素・アンモニアの活用は,エネルギー政策の目玉となっており,マクロレベルでの導入は十分に検討されてきている。先行研究では[2-4],再生可能エネルギー電源の余剰電力により得られる水素の貯蔵を考慮したエネルギー供給システムの評価を行っている。しかし,時々刻々の需給の一致が求められる電力供給において,水素・アンモニア発電所の技術的制約を詳細に考慮した運用モデルによる分析は少ない。
そこで本研究では,電力部門における水素・アンモニアの利用により,電力の供給不足がどの程度発生するのか,また,水素製造のために電力をどの程度使用するのかをシミュレーションにより明らかにするために,水素およびアンモニア発電,水電解による水素生成とアンモニア合成を考慮し,さらに水素・アンモニア発電所の技術的制約を含む詳細モデル構築し,数値実験を行う。
2.水素・アンモニアを考慮したエネルギーフローモデル
図1は,本研究で構築した電力需給モデルのエネルギーフローである。図中左側は,電力需給を示している。電力需給は,太陽光(PV),風力(WP),原子力,火力の各発電と,電力負荷と蓄電池や揚水発電の充放電の需給バランスが一致するという制約を持つ。図中右側は,火力発電所,ならびに水素プラント,アンモニアプラントのエネルギーフローである。火力発電所の燃料は,石炭・LNG・水素・アンモニアであり,それぞれに貯蔵要素を持つ。水素プラントは,余剰電力より水素を生成し,一部は貯蔵され適宜発電に用いられる。残りの水素はアンモニア合成に用いられる。アンモニアプラントでは,アンモニアを合成・貯蔵する。また水素とアンモニアに関しては燃料不足時を考え,水素とアンモニアの輸入もモデルに含んでいる。
3.水素・アンモニア発電を考慮した電力需給モデル
本研究では,先に示したエネルギーフローモデル全体の運用コストの最小化問題を解くことにより,1時間粒度の発電所,燃料貯蔵,揚水発電,蓄電池の運用を決定する。
<3・1>目的関数  目的関数は,供給不足ペナルティコスト,供給余剰ペナルティコスト,三次調整力不足ペナルティコスト,再エネ出力抑制ペナルティコスト,連系線の使用の従量費用(モデル分析上の微小なペナルティ項)の他に燃料の輸入コスト,水素とアンモニアの輸送コストの運用コストの合計を最小化したものとする。輸入コスト,水素とアンモニアの輸送コストが,本研究でモデル構築するにあたり新規追加した項目である。石炭,LNG,水素,アンモニアの輸入分を対象とする。
<3・2>制約式  制約式には需給バランス制約と水素の生成・貯蔵に関する制約,アンモニアの合成と貯蔵に関する制約,輸入燃料の上下限制約,石炭とLNGの貯蔵に関する制約,発電出力に関する制約,火力発電所の最小運転時間制約,最小停止時間制約,燃料使用量に関する制約,貯蔵量の上下限制約,CO2排出量,三次調整力確保制約,連系線容量制約がある。これらのうち需給バランス制約では水電解に使用する電力の項を新規追加し,残りは本研究で新規追加した制約式である。またアンモニアと水素の燃料に関しては国内生産割合が定めらており,これに関する制約も含まれている。
4.数値計算例
<4・1>計算条件  表1は,数値計算例における主な計算条件である。2040年の電源構成を想定しシミュレーションを行った。計算対象期間は,2016年5月の3日間とし,2016年実績の需要を使用した。対象地域は,沖縄を除く,日本全国の9制御エリアとした。太陽光発電と風力発電の導入量は,それぞれ170GW,70GWとし,一時間ごとの出力が事前にわかっていると仮定した。またアンモニアと水素の国内製造割合をどちらも1.0とし,燃料貯蔵の下限値を0,上限値は輸入量の上限値を365で割ったものとした。さらに目的関数内の輸送コストは考慮しないものとした。
<4・2>シミュレーション結果  図2はシミュレーション結果を示す。図2よりアンモニア発電と水素発電における発電出力があること,水素製造のための電力があること,供給余剰や供給不足がないことが読み取れる。また水素製造のための電力があることにより余剰電力を用いた水素製造が行われていることが考えられる。従ってアンモニアの発電を導入した場合の運用の可能性があることが考えられる。
5.まとめ
本研究ではアンモニア発電を考慮したモデルにおいて定式化を行い,5月の3日間を対象としたシミュレーションを行った。結果より,アンモニア発電の導入した場合における運用の可能性があることが考えられた。