日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ49] 人新世の地球システム論:環境・都市・社会

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、コンビーナ:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:原田 尚美(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、山本 伸次(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

11:45 〜 12:00

[MZZ49-05] 高知県浦ノ内湾における人新世を挟む海洋コアの解析ー重金属汚染と環境変動ー

*神徳 理紗1村山 雅史1,2新井 和乃2原田 尚美3 (1.高知大学 農林海洋科学部、2.高知大学海洋コア総合研究センター、3.海洋研究開発機構 地球環境部門)


キーワード:人新世、重金属汚染、有機物、環境変化、内湾

内湾は、自然による環境変化や人間活動による環境変化を詳細に記録している場所である。特に、産業革命以降、人間が地球環境に負荷を与えてきた記録が残されており、新たに「人新世(Anthropocene)」とよばれる地質年代が提唱されている(Crutzen and Stoermer, 2000)。海底堆積物から、「人新世」以前とその後の人為的な影響がある時代を連続で分析している研究例は少なく、工業地帯周辺の伊勢湾での解析例がある(陶ほか, 1982)。本研究では、工業地帯の影響が少ない、地方の高知県中央部に位置する浦ノ内湾の海底堆積物中に記録されている人新世を挟んだ時代の環境変動について検証することを目的とする。特に、有機物の変質過程と重金属の濃度変化を調べた。浦ノ内湾は湾口が狭く、東西に12kmの細長い地形を持つ沈降性の内湾であり、現在、魚類などの養殖も盛んにおこなわれている。

 浦ノ内湾の海底表層堆積物は、2021年3月に湾奥と湾央で、潜水士によってコアパイプを直接押し込み採取された。各地点2本ずつ採取したコア試料の一本は、非破壊分析[X-CT、MSCL]を行い、半割後、digital image, XRF core scanner (ITRAX)をもちいて元素組成分析を行った。もう一本は、1㎝間隔で深さ方向に切りわけた後、冷凍保存した。その後、凍結真空乾燥を行い、粉末状にして、有機物分析[EA-IRMS]の解析、年代測定[γ線スペクトル分析装置]をおこなった。

X線CT・帯磁率から、湾奥(U-1)と湾央(U-3)の堆積物は、シルト質の泥であり、海底表面から深度方向にかけてコア試料の密度が徐々に高くなっている特徴がみられた。また、上部には貝殻片が少なくヘドロが堆積していた。ITRAXと年代測定から、重金属元素(Cu, Zn, Ni)が、湾奥(U-1)では、コア表層より約18cm(1964年)付近から増加し、湾央(U-3)では、コア表層より約36.5cm(1954年以前)付近から増加が見られた。重金属元素の変化以前の値と現在の値では、約2倍近く増加していた。また、酸化還元の指標となるMnは、湾奥では約14cm(推定1977年)から減少、湾央では約34cm(1954年)から減少しており、この頃から海底環境が還元的になったと考えられる。海起源有機炭素の指標となるBrは、湾奥では約25cm(1953年)から増加、湾央では約45cm(1922年以前)から増加しており、植物プランクトン由来のそれらが増加したことが推定できる。さらに、有機物分析を行った結果、有機炭素量(TOC)とC/N比は、湾奥では約25cmから増加、湾央では約45cmから増加しており、それに伴い安定同位体比(δ13Corg., δ15Norg.)も変化した。この時期から養殖がおこなわれており、人為的な影響によるものと考えられる。湾奥(U-1、水深9.7 m)と湾央(U-3、水深19 m)を比較すると、平均堆積速度は1.7倍異なり、海底地形や海盆面積や堆積量等の違いから、重金属元素や有機物の変化の開始時期が異なったと考えられる。