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[MZZ51-02] 哺乳動物体内の「隠れた有機ハロゲン」:抽出可能性有機ハロゲンの定量と既知・未知物質の寄与解析
キーワード:ハロゲン、残留性有機汚染物質、哺乳動物、中性子放射化分析、未同定有機ハロゲン
一部の有機ハロゲン化合物は、残留性、長距離移動性、生体蓄積性、毒性を持つ残留性有機汚染物質(POPs)として国際的な規制対象となっている。一方、生体内にはPOPs以外にも多くの未同定有機ハロゲン(塩素・臭素)化合物が存在していることが示唆されている。有機ハロゲンを定量することができれば、既知のPOPsとの比較から未同定有機ハロゲンの量を推定することができる。特に、分子量1000未満の未同定有機塩素・臭素の中に新規POPsとなり得る化合物に由来する塩素・臭素が含まれると考えられる。本研究では、有機溶媒により抽出される画分を低分子量画分(分子量1000未満)と高分子量画分(分子量1000以上)に分画し、それぞれにおける抽出可能性有機ハロゲン(EOX, X=Cl, Br)を中性子放射化分析により定量した。さらに、濃度既知の個別有機ハロゲン化合物と比較することで、未同定の有機ハロゲン化合物による低分子量EOXに対する寄与を明らかにした [Mukai et al. (2021) Sci. Tot. Environ. 756, 143843]。
スジイルカ(n=3, オス)、ネコ(n=3, オス)、タヌキ(n=3, オス)の肝臓組織を用いた。アセトン、アセトン:ヘキサン=1:1混合溶媒、ヘキサンを順に用いて超音波抽出し、合わせて粗抽出液とした。次に、無機塩素・臭素を除去するため、抽出液を5%硫酸ナトリウム/ヘキサン洗浄水およびMTBE/ヘキサン(1:1)溶液で洗浄した。洗浄後の抽出液に対して、ゲル浸透カラムクロマトグラフィー(GPC)による分画を行った。デカブロモジフェニルエーテル(分子量959)とコーン油の溶出画分を考慮し、最初の120 mLを高分子量画分、後の120 mLを低分子量画分とした。分画後の抽出液2 mLをポリエチレン袋に入れ常温常圧で乾固させ密封し、中性子による放射化を行った。10分または15分照射により生成した放射性核種38Clおよび 80Brをゲルマニウム半導体検出器で5分間測定した。既知有機塩素・臭素は、先行研究で報告されている、または新たに測定した既知有機塩素・臭素化合物の塩素・臭素換算濃度として算出した。
高分子量画分中のEOXをEOX-H、低分子量画分中のEOXをEOX-Lと表す。それぞれの種におけるEOX-HおよびEOX-Lの濃度(脂質重量ベース)から、抽出可能性画分において塩素が臭素に比べ高濃度で存在することが示された。種間差に着目すると、塩素で小さく、臭素で大きいことが分かった。特に、EOBr-Lの濃度はスジイルカにおいて卓越して(30倍以上)高濃度であることが明らかになった。EOCl-LとEOCl-Hの分布から、塩素では低分子量化合物由来の塩素と高分子量化合物由来の塩素がいずれの種でも同程度存在しているのに対し、臭素では低分子量化合物由来の臭素と高分子量化合物由来の臭素のいずれかが卓越して大きいことが示された。スジイルカではEOBr-L濃度がEOBr-H濃度の1.3倍であったのに対し、ネコおよびタヌキではEOBr-L濃度はEOBr-H濃度のそれぞれ0.092倍(ネコ)、0.34倍(タヌキ)であり、種によって特徴が大きく異なることが明らかになった。EOX-Lに対する既知有機塩素・臭素の寄与から、既知有機塩素がEOCl-Lに占める割合は、スジイルカで80%であったのに対し、ネコでは1.5%、タヌキでは16%であった。一方、既知有機臭素がEOBr-Lに占める割合は、タヌキでは1.2%、スジイルカでは0.90%であったのに対し、2個体のネコでは50%以上であった。これは、ネコがハウスダストから、難燃剤であるポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)を高レベルで曝露していることに起因していると考えられる。
ネコ・タヌキにおいて、スジイルカにおける既知有機塩素に匹敵する濃度の未同定有機塩素が確認されたことから、陸域由来の人為・天然の未同定有機塩素化合物による寄与が示唆される。一方、スジイルカにおいては卓越して高濃度の未同定有機臭素が存在しており、PBDEs以外の人為由来の有機臭素化合物や天然由来の有機臭素化合物の存在が示唆される。EOX-H、EOX-Lの濃度、およびEOX-Lに対する既知有機塩素・臭素の寄与には種間差があり、さらに塩素と臭素で異なる傾向を示すことが明らかになった。EOX分析と個別分析を組み合わせることで環境中の”隠れた有機ハロゲン”(未同定EOX)について知ることが可能となる。
本研究は科研費・基盤B(16H02963)、基盤A(20H00646)、若手A(26701012, 17H04718)、愛媛大学化学汚染・沿岸環境研究拠点(Lamer)(課題No. 30-40)の助成を受け実施した。
スジイルカ(n=3, オス)、ネコ(n=3, オス)、タヌキ(n=3, オス)の肝臓組織を用いた。アセトン、アセトン:ヘキサン=1:1混合溶媒、ヘキサンを順に用いて超音波抽出し、合わせて粗抽出液とした。次に、無機塩素・臭素を除去するため、抽出液を5%硫酸ナトリウム/ヘキサン洗浄水およびMTBE/ヘキサン(1:1)溶液で洗浄した。洗浄後の抽出液に対して、ゲル浸透カラムクロマトグラフィー(GPC)による分画を行った。デカブロモジフェニルエーテル(分子量959)とコーン油の溶出画分を考慮し、最初の120 mLを高分子量画分、後の120 mLを低分子量画分とした。分画後の抽出液2 mLをポリエチレン袋に入れ常温常圧で乾固させ密封し、中性子による放射化を行った。10分または15分照射により生成した放射性核種38Clおよび 80Brをゲルマニウム半導体検出器で5分間測定した。既知有機塩素・臭素は、先行研究で報告されている、または新たに測定した既知有機塩素・臭素化合物の塩素・臭素換算濃度として算出した。
高分子量画分中のEOXをEOX-H、低分子量画分中のEOXをEOX-Lと表す。それぞれの種におけるEOX-HおよびEOX-Lの濃度(脂質重量ベース)から、抽出可能性画分において塩素が臭素に比べ高濃度で存在することが示された。種間差に着目すると、塩素で小さく、臭素で大きいことが分かった。特に、EOBr-Lの濃度はスジイルカにおいて卓越して(30倍以上)高濃度であることが明らかになった。EOCl-LとEOCl-Hの分布から、塩素では低分子量化合物由来の塩素と高分子量化合物由来の塩素がいずれの種でも同程度存在しているのに対し、臭素では低分子量化合物由来の臭素と高分子量化合物由来の臭素のいずれかが卓越して大きいことが示された。スジイルカではEOBr-L濃度がEOBr-H濃度の1.3倍であったのに対し、ネコおよびタヌキではEOBr-L濃度はEOBr-H濃度のそれぞれ0.092倍(ネコ)、0.34倍(タヌキ)であり、種によって特徴が大きく異なることが明らかになった。EOX-Lに対する既知有機塩素・臭素の寄与から、既知有機塩素がEOCl-Lに占める割合は、スジイルカで80%であったのに対し、ネコでは1.5%、タヌキでは16%であった。一方、既知有機臭素がEOBr-Lに占める割合は、タヌキでは1.2%、スジイルカでは0.90%であったのに対し、2個体のネコでは50%以上であった。これは、ネコがハウスダストから、難燃剤であるポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)を高レベルで曝露していることに起因していると考えられる。
ネコ・タヌキにおいて、スジイルカにおける既知有機塩素に匹敵する濃度の未同定有機塩素が確認されたことから、陸域由来の人為・天然の未同定有機塩素化合物による寄与が示唆される。一方、スジイルカにおいては卓越して高濃度の未同定有機臭素が存在しており、PBDEs以外の人為由来の有機臭素化合物や天然由来の有機臭素化合物の存在が示唆される。EOX-H、EOX-Lの濃度、およびEOX-Lに対する既知有機塩素・臭素の寄与には種間差があり、さらに塩素と臭素で異なる傾向を示すことが明らかになった。EOX分析と個別分析を組み合わせることで環境中の”隠れた有機ハロゲン”(未同定EOX)について知ることが可能となる。
本研究は科研費・基盤B(16H02963)、基盤A(20H00646)、若手A(26701012, 17H04718)、愛媛大学化学汚染・沿岸環境研究拠点(Lamer)(課題No. 30-40)の助成を受け実施した。