日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

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[M-ZZ52] 地質と文化

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (38) (Ch.38)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、コンビーナ:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、コンビーナ:川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科、MZZ52_2PO1)

11:00 〜 13:00

[MZZ52-P03] 和歌山県高野山参道における石塔婆(町石)の岩相と帯磁率

*先山 徹1 (1.NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)

キーワード:花崗岩、石材、歴史、帯磁率

和歌山県にある世界遺産・高野山への全長約26㎞の参道には、町石(ちょういし)と呼ばれる石塔婆が約1丁(約109m)間隔で215基、また一里(約4㎞)毎に里石が置かれている。そのうち219基の石塔婆について岩石記載、色指数(有色鉱物の容量%)と帯磁率の測定を実施し、石材の年代変化と産地の推定をおこなった。それらは13世紀に設置されたとされ,調査したもののうち59基には1265年~1279年の年号が刻まれている。また18世紀(1771年~1778年)の年号が刻まれたものが11基、20世紀(1913年~1914年)の年号が刻まれたものが24基存在し,幾度か修築・再建されたことがわかる。
石塔婆を構成する石材には、以下の6種類の花崗岩が認められる。
A:淡桃色のカリ長石を含む中~細粒黒雲母花崗岩。色指数3.0~3.9 vol.%。帯磁率1.2~5.4×10-3SI。カリ長石は半自形粒状。全体で59基あり、そのうち21基に13世紀の年代(1266年~1273年)が刻まれている。
B:白色カリ長石の大型斑晶を特徴的に含む粗粒斑状角閃石黒雲母花崗岩~花崗閃緑岩。色指数9.2~16.5 vol.%。帯磁率0.16~0.26×10-3SI。苦鉄質鉱物は集合して産し、しばしばカリ長石と有色鉱物の配列がみられる。扁平な苦鉄質包有岩が含まれることがある。全体で100基存在し、そのうち30基に13世紀の年代が刻まれている。
C:粗粒~中粒黒雲母花崗岩。色指数4.4~6.8 vol. %。帯磁率0.08~0.17×10-3SI。苦鉄質鉱物に富む部分は上述の石材Bと似ているが、等粒状で、より優白質な点で異なる。苦鉄質鉱物は黒雲母を主とするが、まれに角閃石を含むこともある。部分的に圧砕され珪長質鉱物はサブグレイン化し、細粒の黒雲母がフィルム状に集合した弱い面構造を有することもある。フェルサイトの細脈を含むことがある。この石材の石塔婆は21基あり、そのうち8基に13世紀の年代が刻まれている。
D:粗粒黒雲母花崗岩。色指数3.6~6.8 vol. %。帯磁率0.05~0.18×10-3SI。等粒状で石材Cと似ているが、半自形の黒雲母が単独で点在すること、圧砕された組織は見られない点で異なる。全体で10基存在し、そのすべてに18世紀の年号が刻まれている。
E:中粒角閃石黒雲母花崗閃緑岩。1基のみ存在し、1771年の年号が刻まれている。帯磁率:1.1×10-3SI。
F:濃桃色のカリ長石を多く含む粗粒黒雲母花崗岩。色指数8~10 vol.%。帯磁率0.9~1.9×10-3SI。全体で25基あるうち24基に1913年~1914年の年号が刻まれている。また、他の石塔婆の修築部分にも使用されている。
 これらの石材の産地を、帯磁率-色指数図および岩石の組織・構造から推定する。岩相Aは瀬戸内近辺の花崗岩の中では帯磁率が高い。このことに加えて粒状の桃色カリ長石を含むことから、六甲花崗岩の一部と似ている。六甲山地内の花崗岩にも岩相や帯磁率の幅があるので、今後その詳細な分布を抑える必要がある。石材Bは苦鉄質鉱物に富むにもかかわらず帯磁率が低いこと、しばしば面構造を有することから領家帯の花崗岩の可能性が高い。石材Cは石材Bと比べて優白質で低い帯磁率を有するが、類似した類似したものも存在する。石材BとCは帯磁率-色指数図で連続した領域に位置することから、両者は同じ行家花崗岩体内の岩相変化である可能性がある。石材Dと石材Eは産地の特定ができていないが、小豆島などで代表される瀬戸内島嶼部の花崗岩に近い。石材Fは岩相から岡山県万成地域の花崗岩であるとされており、このことは帯磁率や色指数からも支持される。
 以上の石材産地の年代変化をまとめると以下のようになる。つまり、町石は13世紀の初めに作成され、その当時の産地は主に六甲花崗岩と領家花崗岩であった。領家花崗岩の具体的産地は不明である。その後18世紀に一部が修築され、その時期には瀬戸内各地の石材が使用され、石材は多様化した。さらに20世紀初頭には万成花崗岩によって全域が修築され、現在に至った。