10:45 〜 11:10
[O03-04] 学校防災推進のための教員研修と教員養成:地球科学から実践的防災へ
★招待講演
キーワード:学校防災、教員養成、教員研修
学校防災は,児童生徒対象の防災教育と,マニュアル整備や体制づくり等を含む防災管理等からなる。学校防災向上のためには,自然災害の素因としての学校や学区を含む地域の条件(土地条件と社会的条件)と当該地域に影響する誘因(ハザード)の理解が基盤となる。災害現象は地域ごとに大きく異なるため,その地域に関わる災害の要因群への理解を基盤とする,地域の条件にあった防災(防災の自校化)が必要である。
一般に防災教育は,実践的な防災のノウハウの教育を指すが,この狭義の防災教育を実践型防災教育とし,これと防災基礎教育を含む全体を防災教育と捉えるべきと,鈴木康弘(2007)は論じている。防災基礎教育とは,災害の発生過程に関するものであり,防災に取り組まなければならない理由の了解と適切な防災の取組を誘導すると考えられる。防災基礎教育と実践型防災教育との連携が必要である。たとえば,地震の発生メカニズムの理解を深めただけでは実効ある防災にはならず,地震の際に机の下にかくれることの理由や意義を,当該地域の地震発生源や予測震度から学校建築の耐震性等も踏まえて,理解することが有効であろう。
阪神・淡路大震災後,舞子高校の高校教員,環境防災科長として防災に取り組んできた諏訪清二(2015)は,防災の専門家が学校で防災教育の実践をすることで学校防災の担い手を育成できない側面を指摘し,防災や教育の専門家と連携しつつ学校教員が防災教育を実践し成長していくことが必要である,と説いている。
学校防災を担うべき学校教員の多くは,高校時代に地理も地学も選択せずまた大学時代にもそれらの関連科目を履修しなかった。つまり多くの教員にとって,中学校の社会科(地理)と理科(地学)が最後に学習した地球科学ということになる。多忙を極める学校教員を対象とした,以上を踏まえた防災に関する研修が求められている。
2019年に確定した大川小学校津波訴訟判決にもあるとおり,東日本大震災後の学校においては,ハザードマップの想定結果以上に備える防災の取組が必須である。東日本大震災の津波被災地の多くは,地震前に津波ハザードマップに示された想定を,大きく上回る津波に襲われた。想定はある仮定に基づいて行われた計算結果であるため,それを超えることが起こりえる。公的機関が整備公開しているハザードマップを「科学的根拠のある目安」として捉えた上で,想定を超えることも考える適切な読図が求められる。その読図のカギとなるのは,土地条件として指標性が高い「地形」である。言い換えると,ある場所と周辺の地形をみれば,その場所の災害リスクがかなりの程度わかる,ということである。そこで筆者らは,「地形を踏まえたハザードマップ3段階読図法」を提唱している(村山ほか,2021)。第1段階はハザードマップに描かれていることを正確に読み取ること,第2段階はハザードマップと地形の関係を,経験や記憶,地形図,地形分類図とあわせて読むこと,そして第3段階はハザードマップの想定条件や地形を基にその想定外まで考えること,である。想定外も考えるとは,ハザードマップの想定条件以上の事態や想定されていない事態も考えることであり,たとえば想定条件以上の大雨の場合や想定されていない中小河川や水路が氾濫した場合について考えることである。地形を踏まえることで,合理的にこれを考える(想像する)ことができるようになる。筆者らは,この3段階読図法に基づく学校教員むけのオンライン講座を開発し公開している(http://drredu-collabo.sakura.ne.jp/online)。またこれを用いた教員研修も対面やオンラインで実施している。
山形大学地域教育文化学部では,2015年度から「教員になるための学校防災」(2単位)を開講し,2017年度からは教員養成コースの必修科目としている。同科目は,学校防災の実践的内容に加えて,開講15コマのうち8コマは地形や地図を含む地球科学的内容であり,そのうち4コマを山形地方気象台の専門官らが無償で担当し,残りを地質学や地理学の教員が担当してきた。さらに,2009年に設置された山形大学大学院教育実践研究科(教職大学院)では,当初から「学校の安全と防災教育」を必修科目として開講し,同様に地球科学的内容にも複数コマをあてている。
大学の教職課程(教員養成課程)では,東日本大震災などの経験を踏まえて,2019年度入学生から,防災を含む学校安全に関する授業内容が必修とされた。教職課程を有する大学に在籍する地球科学の研究者は,この必修科目に積極的に関与すべきであろう。そして,学校現場で児童生徒に直接授業などを行うだけでなく,それ以上に教員向けの防災に役立つわかりやすい研修や教員による授業の支援にあたるべきと考える。
一般に防災教育は,実践的な防災のノウハウの教育を指すが,この狭義の防災教育を実践型防災教育とし,これと防災基礎教育を含む全体を防災教育と捉えるべきと,鈴木康弘(2007)は論じている。防災基礎教育とは,災害の発生過程に関するものであり,防災に取り組まなければならない理由の了解と適切な防災の取組を誘導すると考えられる。防災基礎教育と実践型防災教育との連携が必要である。たとえば,地震の発生メカニズムの理解を深めただけでは実効ある防災にはならず,地震の際に机の下にかくれることの理由や意義を,当該地域の地震発生源や予測震度から学校建築の耐震性等も踏まえて,理解することが有効であろう。
阪神・淡路大震災後,舞子高校の高校教員,環境防災科長として防災に取り組んできた諏訪清二(2015)は,防災の専門家が学校で防災教育の実践をすることで学校防災の担い手を育成できない側面を指摘し,防災や教育の専門家と連携しつつ学校教員が防災教育を実践し成長していくことが必要である,と説いている。
学校防災を担うべき学校教員の多くは,高校時代に地理も地学も選択せずまた大学時代にもそれらの関連科目を履修しなかった。つまり多くの教員にとって,中学校の社会科(地理)と理科(地学)が最後に学習した地球科学ということになる。多忙を極める学校教員を対象とした,以上を踏まえた防災に関する研修が求められている。
2019年に確定した大川小学校津波訴訟判決にもあるとおり,東日本大震災後の学校においては,ハザードマップの想定結果以上に備える防災の取組が必須である。東日本大震災の津波被災地の多くは,地震前に津波ハザードマップに示された想定を,大きく上回る津波に襲われた。想定はある仮定に基づいて行われた計算結果であるため,それを超えることが起こりえる。公的機関が整備公開しているハザードマップを「科学的根拠のある目安」として捉えた上で,想定を超えることも考える適切な読図が求められる。その読図のカギとなるのは,土地条件として指標性が高い「地形」である。言い換えると,ある場所と周辺の地形をみれば,その場所の災害リスクがかなりの程度わかる,ということである。そこで筆者らは,「地形を踏まえたハザードマップ3段階読図法」を提唱している(村山ほか,2021)。第1段階はハザードマップに描かれていることを正確に読み取ること,第2段階はハザードマップと地形の関係を,経験や記憶,地形図,地形分類図とあわせて読むこと,そして第3段階はハザードマップの想定条件や地形を基にその想定外まで考えること,である。想定外も考えるとは,ハザードマップの想定条件以上の事態や想定されていない事態も考えることであり,たとえば想定条件以上の大雨の場合や想定されていない中小河川や水路が氾濫した場合について考えることである。地形を踏まえることで,合理的にこれを考える(想像する)ことができるようになる。筆者らは,この3段階読図法に基づく学校教員むけのオンライン講座を開発し公開している(http://drredu-collabo.sakura.ne.jp/online)。またこれを用いた教員研修も対面やオンラインで実施している。
山形大学地域教育文化学部では,2015年度から「教員になるための学校防災」(2単位)を開講し,2017年度からは教員養成コースの必修科目としている。同科目は,学校防災の実践的内容に加えて,開講15コマのうち8コマは地形や地図を含む地球科学的内容であり,そのうち4コマを山形地方気象台の専門官らが無償で担当し,残りを地質学や地理学の教員が担当してきた。さらに,2009年に設置された山形大学大学院教育実践研究科(教職大学院)では,当初から「学校の安全と防災教育」を必修科目として開講し,同様に地球科学的内容にも複数コマをあてている。
大学の教職課程(教員養成課程)では,東日本大震災などの経験を踏まえて,2019年度入学生から,防災を含む学校安全に関する授業内容が必修とされた。教職課程を有する大学に在籍する地球科学の研究者は,この必修科目に積極的に関与すべきであろう。そして,学校現場で児童生徒に直接授業などを行うだけでなく,それ以上に教員向けの防災に役立つわかりやすい研修や教員による授業の支援にあたるべきと考える。