日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 月の科学と探査

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、コンビーナ:鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、長岡 央(理化学研究所)、コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、座長:鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、小野寺 圭祐(パリ大学)

11:00 〜 11:15

[PPS06-02] 月極域氷探査のための着氷鉱物粉体の近赤外分光観測:鉱物種と粒径の差異が氷吸収強度に与える影響

*荒木 亮太郎1佐伯 和人1 (1.大阪大学)

キーワード:近赤外分光、リモートセンシング、月極域氷探査

1990年代以降の探査から、月の極域永久影に水が存在する可能性が指摘されている。先行研究はいずれも軌道上でのリモートセンシングによるもので、かつ観測データからの推定モデルも不確実性があるため、水の分布範囲や、水氷なのか含水鉱物なのかといった形態についての情報ははっきりしない。月の極域に着陸して直接水を検出するため、宇宙航空研究開発機構とインド宇宙研究機関が共同で行う月極域探査ミッション(LUPEX)が計画されている。
月面で水をその場観測する観測手法のひとつに、著者らを含むグループが開発する近赤外分光計の搭載が予定される。我々は探査に向けて実験室内で粉体への微量着氷装置を開発した (Ogishima and Saiki, 2021)。この装置で作られる試料は極低温環境でコールドトラップされた水氷の粒子が、月レゴリスに付着して存在している状態を想定している。月レゴリスの模擬物質として、透輝石、斜長石、かんらん石の3種類の鉱物を破砕し、それぞれふるいに掛けて75 – 125 umおよび180 – 250 umの粒径分布を持った6通りの鉱物粉体を用いた。着氷装置によって作られた鉱物粉体の着氷試料について、開発した近赤外線画像分光装置 (Saiki et al., 2019) を使用し、入射角30°/ 出射角0°の条件で波長範囲900 – 1640 nmで観測を行った。波長1500 nmに現れる水の吸収帯を定量評価するために、先行研究(Milliken & Mustard, 2005; Ogishima & Saiki, 2021)で用いられた吸収深さパラメータを使用し、着氷率に対する吸収深さの検量線を求めた。
実験の結果、同じ鉱物であれば鉱物粉体の粒径が大きい場合に検量線の傾きが大きくなることが判明した。また、同一粒径で比較すると、かんらん石 < 斜長石 < 透輝石の順に検量線の傾きが大きくなった。この順番は鉱物の乾燥状態での波長1500 nm反射率と一致する。粒径や鉱物種によって氷の検量線の傾きが異なることから、実際の月レゴリスを分光観測した際に、スペクトルから推定される含水量はレゴリスの組成や粒径分布に影響されることが考えられる。
氷の検量線の傾きを、乾燥スペクトルのみで高精度に推定することはできるだろうか。我々は得られた実験結果を用いて、検量線傾き、鉱物粒径、乾燥粉体反射率の3パラメータを軸にプロットするとひとつの平面に乗ることを見出した。もし、この規則性が多くの鉱物に当てはまれば、粉体粒径と乾燥反射率の値から吸収深さパラメータを用いてレゴリスに含まれる水の量を高精度に求められる。加えて、Hapke(1993)の混合粉体スペクトルモデルを用いて氷が混合した鉱物粉体のスペクトルをつくって同様の傾向が見られるかを調べた。結果、幅広い反射率を持つ各種鉱物で同様に平面に乗る傾向が示唆された。