09:30 〜 09:45
[PPS07-21] 土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度での複数回衝突実験:反発係数と付着特性に対する空隙率の影響
キーワード:土星リング、反発係数、付着
はじめに:土星リングは非常に薄い円盤状(幅数万 km, 厚さ約 10 m)であり,サイズ数 cm から数 m までの水氷粒子で構成されている.その粒子は数 cm/s以下の衝突速度で互いに衝突しており,その相互衝突の結果,リング粒子は凝集・反発・破壊を起こし,土星リングの力学的進化やその構造に影響を及ぼしている.また,土星リングが薄い円盤状を保っているのは,リング粒子が非弾性衝突を起こし,エネルギーを効果的に散逸しているためであると数値シミュレーションによって推測されている.リング粒子の力学的構造はよく知られていないが,惑星探査機カッシーニの観測から高空隙率の氷粒子集合体であることが予測されている.空隙のない表面の滑らかな氷や霜のついた氷の反発係数はこれまでに調べられているが,多孔質氷球の反発係数はこれまで詳しく調べられていない.そこで,多孔質氷球の衝突過程について詳しく調べる必要がある.
本研究の目的は,多孔質氷球における反発係数の衝突速度依存性及び付着限界速度を調べ,薄い円盤状である土星リングを維持可能なリング粒子の内部構造を推定することである.そのため,多孔質氷球と花崗岩板,多孔質氷板の 2 種類の板に対して低速度衝突実験を行い,衝突速度と反発係数の関係及び付着限界速度に対する空隙率依存性を調べた.
実験方法:本研究では球を板へ自由落下させて衝突実験を行い,反発係数を測定した.多孔質氷球(半径1.5 cm,空隙率47, 53, 60%)は氷粒子(平均粒径 10 μm)を球形に押し固めて作成した.また,標的板は花崗岩板,多孔質氷球と同様に作成した多孔質氷板(半径1.5 cm,高さ2 cm の円盤状,空隙率 43 ~ 62%)を使用した.反発係数は衝突の時間間隔を測定することで求めた.衝突速度範囲はvi = 0.78 ~ 101.3 cm/sであった.
実験結果:多孔質氷球の反発係数は,衝突速度の増加とともに低下した.また,1 回目の衝突においては空隙率が大きいほど反発係数は低くなる傾向が見られたが,複数回衝突においては空隙率の差は確認されなかった.この関係はAndrews’ modelによって提案された関係式ε2 = 1/{3(vi/vc)2} * [-2+{30(vi/vc)2-5}1/2](ε:反発係数,vi:衝突速度,vc:限界速度)で表すことができ,vcは空隙率の増加に伴って小さくなった.また,複数回衝突の場合は空隙率によらず vc = 0.28 cm/sとなった.複数回衝突の場合に反発係数が小さくなる原因としては,前回の衝突によって焼結による結合が切れて強度が小さくなったことが原因であると考えられる.
多孔質氷球と花崗岩板の衝突の場合は反発係数が0.6で一定となる準弾性領域が確認され,その境界速度は空隙率 47%では6 cm/s,空隙率53%では4.5 cm/s,空隙率60%では3.5 cm/sであった.ここで得られた境界速度を用いてヘルツの弾性論より衝突圧力を計算すると,空隙率47%では2.24 MPa,空隙率53%では1.16 MPa ,60%では0.43 MPa となった.これを静的圧縮変形試験で計測された多孔質氷球の圧縮強度Yd,t(空隙率 47%:2.72 MPa,空隙率 53%:1.35 MPa ,60%:0.45 MPa )と比較するとほぼ一致することがわかった.この結果から,限界速度を超えると塑性変形が開始して,エネルギー散逸が起こって反発係数が下がることが推測された.
今回の実験における衝突速度範囲では反発と付着のどちらも観測された。しかし,土星リングの温度は約100 Kであり、今回実験を行った温度258 Kよりも低温であるため,付着の限界速度はより低速であると考えられる.従って,土星リングへと応用するため実験で得られた反発係数と衝突速度の関係式は温度に依存しないと仮定し,土星リングの衝突速度へと実験結果を外挿した。その結果,多孔質氷同士の複数回衝突における反発係数は衝突速度0.5 ~ 3 cm/sで0.4 ~ 0.7になることがわかった.この衝突速度は数値シミュレーションによって得られた土星リング粒子の衝突速度(0.3 ~ 2 cm/s)とよく一致することがわかった.以上より,土星リング粒子は空隙率47 ~ 60%の多孔質氷球であることが示唆された.
本研究の目的は,多孔質氷球における反発係数の衝突速度依存性及び付着限界速度を調べ,薄い円盤状である土星リングを維持可能なリング粒子の内部構造を推定することである.そのため,多孔質氷球と花崗岩板,多孔質氷板の 2 種類の板に対して低速度衝突実験を行い,衝突速度と反発係数の関係及び付着限界速度に対する空隙率依存性を調べた.
実験方法:本研究では球を板へ自由落下させて衝突実験を行い,反発係数を測定した.多孔質氷球(半径1.5 cm,空隙率47, 53, 60%)は氷粒子(平均粒径 10 μm)を球形に押し固めて作成した.また,標的板は花崗岩板,多孔質氷球と同様に作成した多孔質氷板(半径1.5 cm,高さ2 cm の円盤状,空隙率 43 ~ 62%)を使用した.反発係数は衝突の時間間隔を測定することで求めた.衝突速度範囲はvi = 0.78 ~ 101.3 cm/sであった.
実験結果:多孔質氷球の反発係数は,衝突速度の増加とともに低下した.また,1 回目の衝突においては空隙率が大きいほど反発係数は低くなる傾向が見られたが,複数回衝突においては空隙率の差は確認されなかった.この関係はAndrews’ modelによって提案された関係式ε2 = 1/{3(vi/vc)2} * [-2+{30(vi/vc)2-5}1/2](ε:反発係数,vi:衝突速度,vc:限界速度)で表すことができ,vcは空隙率の増加に伴って小さくなった.また,複数回衝突の場合は空隙率によらず vc = 0.28 cm/sとなった.複数回衝突の場合に反発係数が小さくなる原因としては,前回の衝突によって焼結による結合が切れて強度が小さくなったことが原因であると考えられる.
多孔質氷球と花崗岩板の衝突の場合は反発係数が0.6で一定となる準弾性領域が確認され,その境界速度は空隙率 47%では6 cm/s,空隙率53%では4.5 cm/s,空隙率60%では3.5 cm/sであった.ここで得られた境界速度を用いてヘルツの弾性論より衝突圧力を計算すると,空隙率47%では2.24 MPa,空隙率53%では1.16 MPa ,60%では0.43 MPa となった.これを静的圧縮変形試験で計測された多孔質氷球の圧縮強度Yd,t(空隙率 47%:2.72 MPa,空隙率 53%:1.35 MPa ,60%:0.45 MPa )と比較するとほぼ一致することがわかった.この結果から,限界速度を超えると塑性変形が開始して,エネルギー散逸が起こって反発係数が下がることが推測された.
今回の実験における衝突速度範囲では反発と付着のどちらも観測された。しかし,土星リングの温度は約100 Kであり、今回実験を行った温度258 Kよりも低温であるため,付着の限界速度はより低速であると考えられる.従って,土星リングへと応用するため実験で得られた反発係数と衝突速度の関係式は温度に依存しないと仮定し,土星リングの衝突速度へと実験結果を外挿した。その結果,多孔質氷同士の複数回衝突における反発係数は衝突速度0.5 ~ 3 cm/sで0.4 ~ 0.7になることがわかった.この衝突速度は数値シミュレーションによって得られた土星リング粒子の衝突速度(0.3 ~ 2 cm/s)とよく一致することがわかった.以上より,土星リング粒子は空隙率47 ~ 60%の多孔質氷球であることが示唆された.