日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG49] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (24) (Ch.24)

コンビーナ:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、コンビーナ:田阪 美樹(静岡大学 )、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)

11:00 〜 13:00

[SCG49-P07] 低温環境における氷摩擦実験と火星内部レオロジー構造への応用

*福原 大二朗1東 真太郎1片山 郁夫2猿谷 友孝3 (1.東京工業大学 理学院 地球惑星科学系、2.広島大学、3.国立極地研究所)

キーワード:氷、火星、レオロジー構造、摩擦実験

 火星内部の水の存在は、惑星表層・内部進化やこれからの探査を考える上でも非常に重要な鍵となるため、惑星科学のさまざまな分野において議論が行われてきた。一方で、地球と比較して火星内部の温度構造は低く、氷圏(Cryosphere)が広がっていると考えられていることから、火星地下の水は氷の状態で存在している可能性が高いことが指摘されている(Clifford et al., 2010)。そこで、本研究では、氷–岩石模擬物質2相系の摩擦実験を行い、その結果をもとに氷の摩擦強度を含めた火星内部の強度構造(レオロジー構造)の計算を行なうことで、氷がプレート強度に及ぼす影響と、それを基に地下氷の分布の推定ができないか検討を行なった。
 本研究では、氷とソーダ石灰ガラスのパウダー(粒径<100µm)を準備し、氷の体積比率を0%、20%、50%、100%に調整した試料を用意した。この試料を用いて、広島大学設置の二軸摩擦試験機によって摩擦実験を行なった。実験条件は垂直応力10 MPa、せん断速度を3 µm/sとした。さらに温度条件は–60℃から–30℃に変化させることで、摩擦係数に対する氷の体積比率の依存性と温度依存性を調べた。摩擦実験の結果から、氷の体積比率が高くなると摩擦係数が減少することと、摩擦係数の温度依存性が大きくなることがわかった。この結果から、体積比率―温度―摩擦係数の関係を表す摩擦則の構築を行なった。
 構築した摩擦則を用いて、弾性厚みの観測がある火星の18地域に対してレオロジー構造を推定した。レオロジー構造を推定する際の温度構造は、ガンマ線スペクトルによって測定された放射性熱源(U,Th,K)の濃度から求めた熱流量と熱伝導方程式によって計算した(Azuma and Katayama, 2017)。結果として、プレート浅部に氷が存在する場合、その深さでは脆性強度が低下し、応力集中(変形局所化)が起きる可能性があることがわかった。特に氷が存在することで最も強度が小さくなるのは、内部の温度が0ºC付近で、摩擦に対する水の影響が氷の摩擦から間隙水圧を考慮した摩擦へと遷移する領域であった。加えて、このレオロジー構造から推察される弾性厚みと、観測で得られている弾性厚みとを比較することで、地下氷の存在や分布を推察できないか試みた。しかし、推察された氷圏に氷が存在していたとしても弾性厚みへの影響は数kmのオーダーであったことから、火星地下の氷圏は弾性厚みに大きな影響を及ぼすほど広がってはおらず、氷の分布などの検討は非常に困難であると結論づけた。しかし、氷分布の推定が困難である一方、18地域の火星レオロジー構造の推定の結果からは、火星の広い地域でプレート内部が湿潤傾向にある可能性が高いことがわかった。