11:00 〜 13:00
[SCG55-P02] 自己回帰モデルによるスペクトル解析 —地盤増幅率の周波数特性評価への適用—
キーワード:自己回帰モデル、スペクトル解析、地盤増幅率、周波数特性、地震動即時予測、長周期地震動
1.はじめに
より精度の高い強震動即時予測・長周期地震動予測を実現させるには、周波数の違いを加味したサイト増幅係数を使用することが有効である(例えばHoshiba (2013)やOgiso et al. (2016))。サイト増幅係数を算出する際に使われているのは高速フーリエ変換(FFT)であるが、FFTで低周波(長周期)領域のスペクトルを求める場合、短時間のデータから正しいスペクトルを求めるのは難しいと考えられる。また、FFTでは周波数軸で等間隔の分析結果が得られるため、低周波側は疎なデータになる。これに対し、過去のデータを元に将来のデータを予測するために使われる自己回帰(AR)モデルはモデルの推定の際にスペクトルが得られ、そのスペクトルにはFFTにある上記のような制限がない。そこで、ARモデルによるスペクトル解析を用いた地盤増幅率の周波数特性評価を試行し、有効性について検討した。
2.解析手法
(1)自己回帰(AR)モデル
ARモデルとは過去の値から現在や未来の値を推測するモデルであり、ある時点の出力は図1の(1)式のように表される。また、スペクトルは図1の(2)式のように表される。自己回帰係数φkは、Yule-Walker法で求めた。また、自己回帰の次数pは、地震波に適用した場合、pが大きいほど赤池情報量規準(AIC)が小さい傾向を示した(予測と観測の合いが良い)ことや、低次のARモデルによるスペクトルは特に低周波領域で平滑化することが分かったことから、取り得る最大次数(解析対象サンプル数―2)を次数pとして使用することとした。なお、高次数のARモデルによるスペクトルは、FFTによるスペクトルと良く似た形状になることを確かめている。
(2)使用データ及び解析手順
使用したデータは、表1及び図2のとおりである。
これらのP波およびS波について、地表および地下置きの強震計のNS、 EW、 UD成分のそれぞれについてFFTとARモデルによるスペクトルを算出し、地表/地下の振幅スペクトル比を求めた。さらに、低周波領域での地表/地下の振幅比が振幅スペクトル比でも再現されているか確認するため、オリジナル波形に0.2Hzから0.8Hzのバンドパスフィルターをかけて地表/地下の振幅比を算出したものと、FFTおよびARモデルによるスペクトルから得られる振幅スペクトル比の値とを比較した。
3.解析結果
解析結果の1例を図3に示す。
今回の解析の結果、以下のことがわかった。
(1)ARモデルのスペクトルは、FFTで算出したスペクトルと似た形状になる。
(2)振幅スペクトル比のイベント毎のバラつきは、ARモデルよりFFTで算出したものの方が小さい傾向がある。
(3)振幅スペクトル比は、ARモデルよりFFTで算出したものの方が、実際の地震波形の振幅比に近い傾向がある(低周波領域で見た場合)。
4.まとめ
ARモデルよりFFTで算出した振幅スペクトル比の方が、実際の地震波形の振幅比に近い傾向があることが分かった。ARモデルがある一定値の周りで一定のパターンを繰り返すデータをモデリングするのに向いているのに対し、地震波はそのような単純なパターンを持たない時系列データであり、線形の式で地震波を表すことには限界があることが一因ではないかと考えられる。また、ARモデルはイベント毎の振幅スペクトル比のバラつきが大きいことが分かった。これらを勘案すると、地盤増幅率の周波数特性評価には、低周波領域であってもFFTを使用する方が適当と考えられる。
[謝辞]
国立研究開発法人防災科学技術研究所のKiK-netのデータ(防災科学技術研究所、2019)を使用させていただきました。ここに記して感謝いたします。
[参考文献]
Hoshiba M (2013) Real-time correction of frequency-dependent site amplification factors for application to earthquake early warning. Bull Seismol Soc Am 103:3179-3188. doi:10.1785/0120130060.
Ogiso M, Aoki S, Hoshiba M (2016) Real-time seismic intensity prediction using frequency-dependent site amplification factors. Earth, Planets and Space 68:83. doi:10.1186/s40623-016-0467-4.
防災科学技術研究所 (2019) NIED K-NET, KiK-net. doi: 10.17598/nied.0004.
より精度の高い強震動即時予測・長周期地震動予測を実現させるには、周波数の違いを加味したサイト増幅係数を使用することが有効である(例えばHoshiba (2013)やOgiso et al. (2016))。サイト増幅係数を算出する際に使われているのは高速フーリエ変換(FFT)であるが、FFTで低周波(長周期)領域のスペクトルを求める場合、短時間のデータから正しいスペクトルを求めるのは難しいと考えられる。また、FFTでは周波数軸で等間隔の分析結果が得られるため、低周波側は疎なデータになる。これに対し、過去のデータを元に将来のデータを予測するために使われる自己回帰(AR)モデルはモデルの推定の際にスペクトルが得られ、そのスペクトルにはFFTにある上記のような制限がない。そこで、ARモデルによるスペクトル解析を用いた地盤増幅率の周波数特性評価を試行し、有効性について検討した。
2.解析手法
(1)自己回帰(AR)モデル
ARモデルとは過去の値から現在や未来の値を推測するモデルであり、ある時点の出力は図1の(1)式のように表される。また、スペクトルは図1の(2)式のように表される。自己回帰係数φkは、Yule-Walker法で求めた。また、自己回帰の次数pは、地震波に適用した場合、pが大きいほど赤池情報量規準(AIC)が小さい傾向を示した(予測と観測の合いが良い)ことや、低次のARモデルによるスペクトルは特に低周波領域で平滑化することが分かったことから、取り得る最大次数(解析対象サンプル数―2)を次数pとして使用することとした。なお、高次数のARモデルによるスペクトルは、FFTによるスペクトルと良く似た形状になることを確かめている。
(2)使用データ及び解析手順
使用したデータは、表1及び図2のとおりである。
これらのP波およびS波について、地表および地下置きの強震計のNS、 EW、 UD成分のそれぞれについてFFTとARモデルによるスペクトルを算出し、地表/地下の振幅スペクトル比を求めた。さらに、低周波領域での地表/地下の振幅比が振幅スペクトル比でも再現されているか確認するため、オリジナル波形に0.2Hzから0.8Hzのバンドパスフィルターをかけて地表/地下の振幅比を算出したものと、FFTおよびARモデルによるスペクトルから得られる振幅スペクトル比の値とを比較した。
3.解析結果
解析結果の1例を図3に示す。
今回の解析の結果、以下のことがわかった。
(1)ARモデルのスペクトルは、FFTで算出したスペクトルと似た形状になる。
(2)振幅スペクトル比のイベント毎のバラつきは、ARモデルよりFFTで算出したものの方が小さい傾向がある。
(3)振幅スペクトル比は、ARモデルよりFFTで算出したものの方が、実際の地震波形の振幅比に近い傾向がある(低周波領域で見た場合)。
4.まとめ
ARモデルよりFFTで算出した振幅スペクトル比の方が、実際の地震波形の振幅比に近い傾向があることが分かった。ARモデルがある一定値の周りで一定のパターンを繰り返すデータをモデリングするのに向いているのに対し、地震波はそのような単純なパターンを持たない時系列データであり、線形の式で地震波を表すことには限界があることが一因ではないかと考えられる。また、ARモデルはイベント毎の振幅スペクトル比のバラつきが大きいことが分かった。これらを勘案すると、地盤増幅率の周波数特性評価には、低周波領域であってもFFTを使用する方が適当と考えられる。
[謝辞]
国立研究開発法人防災科学技術研究所のKiK-netのデータ(防災科学技術研究所、2019)を使用させていただきました。ここに記して感謝いたします。
[参考文献]
Hoshiba M (2013) Real-time correction of frequency-dependent site amplification factors for application to earthquake early warning. Bull Seismol Soc Am 103:3179-3188. doi:10.1785/0120130060.
Ogiso M, Aoki S, Hoshiba M (2016) Real-time seismic intensity prediction using frequency-dependent site amplification factors. Earth, Planets and Space 68:83. doi:10.1186/s40623-016-0467-4.
防災科学技術研究所 (2019) NIED K-NET, KiK-net. doi: 10.17598/nied.0004.