11:00 〜 13:00
[SCG55-P04] 津波波源自動解析システムMarlinの南海トラフ域への展開
キーワード:津波即時予測、津波インバージョン、津波波源、海底観測網、海底水圧データ
Tsushima et al. (2009, JGR) で提案された、海底水圧計データより津波初期水位分布(津波波源)をリアルタイムに推定し、それに基づき近地津波を予測する手法は、日本海溝海底地震津波観測網S-net及び地震・津波観測監視システムDONETという大規模多点リアルタイム海底観測網の構築により現実的となった。このアプローチでは、巨大地震における震源過程の空間的な不均質性により複雑な津波が生じた場合でも対応が可能となる。また津波波源の迅速な把握は、特に南海トラフ地震の対応で求められている、想定震源域内の破壊領域の評価にも有効である。鈴木・他 (2020、JpGU) では、東日本太平洋沖で発生する地震を対象に、S-net水圧計データを用いて自動的に津波波源を推定し、沖合津波波動場から沿岸津波高、津波浸水深まで計算するシステムMarlinの開発について報告した。その後もMarlinの改良とデータ拡充を進めており、今回はDONET水圧計データを用いて南海トラフ域で発生した地震津波への対応を図った結果について発表する。
Marlinの基本的な解析フローについては鈴木・他 (2020) で説明しているため、ここでは主要な改良、拡充に関する点を取り上げて紹介する。DONETデータを利用するにあたり、新たに中部地方から四国の沿岸と沖合にグリーン関数を計算する要素波源を設定した。要素波源のサイズを約24 km間隔としたグリーン関数バンクと約8 km間隔のバンクを用意し、AQUA CMTによるモーメントマグニチュードに応じてM8前後以上の大地震では約24 km間隔、より細かい空間不均質性の考慮が必要なM7クラス以下の地震では約8 km間隔のグリーン関数バンクを利用することとした。S-net敷設海域に対しても約8 km間隔のバンクの拡充を行っている。なおS-netデータを用いてシステムを常時稼働させた検証において、グリーン関数バンクに含まれるデータが膨大で実際のイベント時の解析開始に想定より時間を要していることが判明したため、グリーン関数読み込み方法を改良して高速化を図っている。インバージョンによる津波波源推定後の津波フォワード計算については、防災科学技術研究所の大規模計算機のGPUで自動計算する機能を追加し、DONETデータを利用した解析では四国から愛知県までの太平洋沿岸、S-netデータを利用した解析では千葉県から北海道までの太平洋沿岸について最小90m格子地形モデルを用いた非線型津波シミュレーションを高速に実施できるようになった。
DONETデータを用いた南海トラフ域に対するMarlinの挙動を、過去の南海トラフ巨大地震に対して提案されている震源モデルより計算したDONET観測点での模擬水圧波形データを用いて検証した。1707年宝永地震のFurumura et al. (2011, JGR)の震源モデルを用いた検証を図に示す。地震後10分間のデータ解析では解析領域全体(遠州灘~四国沖)で同等に隆起が見られる結果となったが、30分後以降のデータ解析では仮定した震源モデル同様に四国西部沖合に最も大きな隆起が生じ、40分間のデータ解析ではその振幅が一層大きくなる結果となった。これにより、高知県に対する予測波高が解析時間の経過につれ高くなっている。なおDONETデータのみを用いた自動解析であることを考慮し、要素波源の設定領域は足摺岬沖までとしているため、Furumura et al. (2011) による震源モデルの西端まではカバーしていない。1944年昭和東南海地震についてはBaba et al. (2006, Tectonophysics)、1946年昭和南海地震についてはBaba et al. (2002, PEPI) の震源モデルを用いて検証を行った。それぞれの地震に対し、10分間のデータでは津波波源の全体的な広がりについて、以降のデータを用いた解析ではより局所的な隆起沈降について、仮定した震源モデルと整合的な結果が得られた。
Marlinの基本的な解析フローについては鈴木・他 (2020) で説明しているため、ここでは主要な改良、拡充に関する点を取り上げて紹介する。DONETデータを利用するにあたり、新たに中部地方から四国の沿岸と沖合にグリーン関数を計算する要素波源を設定した。要素波源のサイズを約24 km間隔としたグリーン関数バンクと約8 km間隔のバンクを用意し、AQUA CMTによるモーメントマグニチュードに応じてM8前後以上の大地震では約24 km間隔、より細かい空間不均質性の考慮が必要なM7クラス以下の地震では約8 km間隔のグリーン関数バンクを利用することとした。S-net敷設海域に対しても約8 km間隔のバンクの拡充を行っている。なおS-netデータを用いてシステムを常時稼働させた検証において、グリーン関数バンクに含まれるデータが膨大で実際のイベント時の解析開始に想定より時間を要していることが判明したため、グリーン関数読み込み方法を改良して高速化を図っている。インバージョンによる津波波源推定後の津波フォワード計算については、防災科学技術研究所の大規模計算機のGPUで自動計算する機能を追加し、DONETデータを利用した解析では四国から愛知県までの太平洋沿岸、S-netデータを利用した解析では千葉県から北海道までの太平洋沿岸について最小90m格子地形モデルを用いた非線型津波シミュレーションを高速に実施できるようになった。
DONETデータを用いた南海トラフ域に対するMarlinの挙動を、過去の南海トラフ巨大地震に対して提案されている震源モデルより計算したDONET観測点での模擬水圧波形データを用いて検証した。1707年宝永地震のFurumura et al. (2011, JGR)の震源モデルを用いた検証を図に示す。地震後10分間のデータ解析では解析領域全体(遠州灘~四国沖)で同等に隆起が見られる結果となったが、30分後以降のデータ解析では仮定した震源モデル同様に四国西部沖合に最も大きな隆起が生じ、40分間のデータ解析ではその振幅が一層大きくなる結果となった。これにより、高知県に対する予測波高が解析時間の経過につれ高くなっている。なおDONETデータのみを用いた自動解析であることを考慮し、要素波源の設定領域は足摺岬沖までとしているため、Furumura et al. (2011) による震源モデルの西端まではカバーしていない。1944年昭和東南海地震についてはBaba et al. (2006, Tectonophysics)、1946年昭和南海地震についてはBaba et al. (2002, PEPI) の震源モデルを用いて検証を行った。それぞれの地震に対し、10分間のデータでは津波波源の全体的な広がりについて、以降のデータを用いた解析ではより局所的な隆起沈降について、仮定した震源モデルと整合的な結果が得られた。