14:05 〜 14:30
[SSS12-02] 島原湾における雲仙断層群南東部(海域部)の活動性
★招待講演
キーワード:雲仙断層群、海底活断層調査、海上ボーリング調査、後期更新世、完新世、平均変位速度
雲仙断層群南東部の島原湾における海域延長部を対象として,後期更新世以降における活動性を検討するための調査研究を実施した.雲仙断層群南東部は,島原半島から島原湾の沖合にかけてほぼ東西方向に延びる長さ23 km程度の活断層帯であり,断層の南側が相対的に隆起する正断層によって構成されている.地震調査研究推進本部地震調査委員会(2006)によれば,本断層帯の最新活動時期はK-Ah降下層準(7.3 ka)以降であるとされているが,平均上下変位速度が不明であるため,将来の地震発生確率も不明である.島原湾は閉塞的な内湾であり,土砂供給量も大きいため,海域の調査によって活断層の過去の活動を明らかにできる可能性がある.そこで,本研究では海上ボーリング調査によって長さ35―40 mの堆積物コア試料を採取し,それを既存の探査記録(産総研ほか,2010)と組み合わせることによって,後期更新世以降における本断層帯の活動性を明らかにすることを目指した.なお,本研究は文部科学省委託事業「活断層評価の高度化・効率化のための調査」の一環として実施したものである.
掘削地点を決定するため,既存の高分解能MCS探査記録(産総研ほか,2010)の再処理を実施し,探査記録断面の再検討によるサイトサーベイを実施した.その結果,本断層帯において最も顕著かつ支配的な断層構造(北向きの高角正断層)を横断するセクションを選定し,断層帯の低下側(UTO1,標高:―46.7 m)では掘削長40 mの,隆起側(UTO2,標高:―33.1 m)では掘削長35 mの堆積物コア試料を採取した.堆積物コア試料は半裁し,肉眼観察,CTスキャナによる撮影と画像観察,放射性炭素年代測定および火山灰分析を実施した.その結果,地層を3つのユニット(上位からユニットA,B,C)に区分した.そのうち,ユニットBはさらにサブユニットB1,B2に細分した.
断層の低下側(UTO1地点)においては,海底面下0.0―29.0 mの層準からは1.42―16.57 cal kBPの放射性炭素年代値が得られている.これを後氷期の海面上昇期〜高海面期の地層に対比し,ユニットAとした.ユニットAの下位の29.0―33.2mに分布する砂礫層は,上下の地層の年代および陸域の沖積層に見られる一般的な層序を参考に,最終氷期最盛期(ca 18 ka)の堆積物に対比し,これをサブユニットB1とした.サブユニットB1の下位の33.2―40.0 mの層準からは22.49 cal kBPの放射性炭素年代値およびAT火山灰(29−30 ka)が得られている.これを最終氷期の地層に対比し,サブユニットB2とした.
断層の隆起側(UTO2地点)においては,海底面下0.0―8.2m の層準からは3.17―18.23 cal kBPの年代値が得られている.これを最終氷期最盛期〜完新世の地層に対比し,ユニットAとした.ユニットAの下位の8.2―14.8 mに分布する砂礫層を,上下の地層の年代にもとづいて最終氷期の地層に対比し,ユニットBとした.ユニットBの砂礫層にはAso-4(85―90 ka)由来の軽石が多量に含まれるが,産状と層序から再移動した砕屑物と解釈した.ユニットBの下位の14.8―35.0 mの層準からは44.64 cal kBPの放射性炭素年代が得られており,Aso-4/3(群)に対比される火山灰層が確認されている.これを最終間氷期の地層に対比し,ユニットCとした.
堆積物コアの分析にもとづく層序と高分解能MCS探査記録の再処理断面から,雲仙断層群周辺の地質断面図を作成し,その活動性を検討した.ユニットAおよびユニットBは断層帯による上下変位を受け,ユニットAには断層に引きずられて形成されたと推察される構造が認められる.最終氷期の低海面期に対比されるユニットBの上面は,断層帯を挟んで上下方向に約45 mの比高がある.現在の海底面には断層帯を挟んで約12 mの断層崖が発達していることから,ユニットB形成時においても初生的に断層崖による地形的な高低差が形成されていた可能性を指摘できる.その場合には,ユニットB(特にサブユニットB1)の形成時に網状河川等による側方侵食が生じ,断層崖の後退・デグラデーションが生じたはずである.しかし,音波探査記録断面にはそのような痕跡が確認できない.このことは,断層帯を挟んだユニットB上面の比高が,断層帯の活動(上下変位)によって生じたものであることを強く示唆する.ユニットB上面の形成年代を最終氷期最盛期(18 ka)と仮定すれば,断層帯の上下変位速度は約2.5 m/kyと算出できる.この値は,産総研ほか(2010)が推定した500 ka以降の平均上下変位速度(約2.4 m/ky)と調和的である.
参考文献
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2006):雲仙断層群の評価(一部改訂).
産総研ほか(2010):沿岸海域における活断層調査 雲仙断層群/北部及び南東部(海域部)成果報告書.
掘削地点を決定するため,既存の高分解能MCS探査記録(産総研ほか,2010)の再処理を実施し,探査記録断面の再検討によるサイトサーベイを実施した.その結果,本断層帯において最も顕著かつ支配的な断層構造(北向きの高角正断層)を横断するセクションを選定し,断層帯の低下側(UTO1,標高:―46.7 m)では掘削長40 mの,隆起側(UTO2,標高:―33.1 m)では掘削長35 mの堆積物コア試料を採取した.堆積物コア試料は半裁し,肉眼観察,CTスキャナによる撮影と画像観察,放射性炭素年代測定および火山灰分析を実施した.その結果,地層を3つのユニット(上位からユニットA,B,C)に区分した.そのうち,ユニットBはさらにサブユニットB1,B2に細分した.
断層の低下側(UTO1地点)においては,海底面下0.0―29.0 mの層準からは1.42―16.57 cal kBPの放射性炭素年代値が得られている.これを後氷期の海面上昇期〜高海面期の地層に対比し,ユニットAとした.ユニットAの下位の29.0―33.2mに分布する砂礫層は,上下の地層の年代および陸域の沖積層に見られる一般的な層序を参考に,最終氷期最盛期(ca 18 ka)の堆積物に対比し,これをサブユニットB1とした.サブユニットB1の下位の33.2―40.0 mの層準からは22.49 cal kBPの放射性炭素年代値およびAT火山灰(29−30 ka)が得られている.これを最終氷期の地層に対比し,サブユニットB2とした.
断層の隆起側(UTO2地点)においては,海底面下0.0―8.2m の層準からは3.17―18.23 cal kBPの年代値が得られている.これを最終氷期最盛期〜完新世の地層に対比し,ユニットAとした.ユニットAの下位の8.2―14.8 mに分布する砂礫層を,上下の地層の年代にもとづいて最終氷期の地層に対比し,ユニットBとした.ユニットBの砂礫層にはAso-4(85―90 ka)由来の軽石が多量に含まれるが,産状と層序から再移動した砕屑物と解釈した.ユニットBの下位の14.8―35.0 mの層準からは44.64 cal kBPの放射性炭素年代が得られており,Aso-4/3(群)に対比される火山灰層が確認されている.これを最終間氷期の地層に対比し,ユニットCとした.
堆積物コアの分析にもとづく層序と高分解能MCS探査記録の再処理断面から,雲仙断層群周辺の地質断面図を作成し,その活動性を検討した.ユニットAおよびユニットBは断層帯による上下変位を受け,ユニットAには断層に引きずられて形成されたと推察される構造が認められる.最終氷期の低海面期に対比されるユニットBの上面は,断層帯を挟んで上下方向に約45 mの比高がある.現在の海底面には断層帯を挟んで約12 mの断層崖が発達していることから,ユニットB形成時においても初生的に断層崖による地形的な高低差が形成されていた可能性を指摘できる.その場合には,ユニットB(特にサブユニットB1)の形成時に網状河川等による側方侵食が生じ,断層崖の後退・デグラデーションが生じたはずである.しかし,音波探査記録断面にはそのような痕跡が確認できない.このことは,断層帯を挟んだユニットB上面の比高が,断層帯の活動(上下変位)によって生じたものであることを強く示唆する.ユニットB上面の形成年代を最終氷期最盛期(18 ka)と仮定すれば,断層帯の上下変位速度は約2.5 m/kyと算出できる.この値は,産総研ほか(2010)が推定した500 ka以降の平均上下変位速度(約2.4 m/ky)と調和的である.
参考文献
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2006):雲仙断層群の評価(一部改訂).
産総研ほか(2010):沿岸海域における活断層調査 雲仙断層群/北部及び南東部(海域部)成果報告書.