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[SVC30-07] 霧島火山,えびの高原(硫黄山)周辺における地熱活動と災害因子について
キーワード:霧島火山、硫黄山、水蒸気噴火
日本では過去に多くの水蒸気噴火による災害を経験したが,御嶽山2014年噴火によって改めて水蒸気噴火への対応の難しさに直面した.それは,霧島山にとっても他人事ではなく,登山・観光域での防災対応・情報伝達は重要な課題となる(田島, 2017).えびの高原(硫黄山)周辺では地下浅部に発達した低比抵抗層(キャップロック)がある条件下において(Tsukamoto et al., 2018),キャップロックより浅い領域で天水とマグマ水の混合が生じ2018年噴火が発生した(Tajima et al., 2020a).一方,御嶽山2014年噴火は,海抜付近の地下深部から熱水が急上昇し噴火に至ったと考えられており(Kato et al., 2015),その結果として1 kmに飛散する噴石によって甚大な被害が生じた(Kaneko et al., 2016).Tajima et al.(2020b)は,硫黄山2018年噴火では火口下でキャップロック層と地下水層の2段階でマグマ性熱水が捉えられるプロセスが機能したのに対し,御嶽山2014年噴火はこれらがあまり機能しなかったと考えた.両者の防災対応は異なるものと考えられ,御嶽山型インシデント,硫黄山型インシデントと呼ぶ.御嶽山型インシデントに対して,えびの高原(硫黄山)周辺においても様々な対策が施された.えびのエコミュージアムセンターでは,噴石に対してアラミド繊維(Yamada et al., 2018)による屋根の改修の他,多くの施設補強対策が取られた(環境省九州地方環境事務所,http://kyushu.env.go.jp/pre_2016/post_36.html).エコミュージアムセンターでヒアリングを行い,えびの高原では定期的に避難訓練が行われその訓練の効果が大きいと聞いた.一方,硫黄山型インシデントでは,2014年夏頃より当該地域では地熱域が徐々に拡大し,拡大初期には火山ガスや転落事故防止のため噴気域へのアクセス制限が行われた(宮崎県,https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kiki-kikikanri/kurashi/bosai/kirisima.html).徐々に地熱域が拡大すると言ってもその速度に波があり,急速な拡大期には地震増加など様々なサインが生じ危機感が募る.対応の具体例として,現場レベルでは2016年の初頭に登山道の付替え議論をしたことを覚えている.この議論が生かされたかわからないが,2016年3月,2017年4月には登山道の付け替えが行われた.拡大する活動に対しては,自主的な規制を合わせて広げることもレベル1と2間の切迫性を印象付ける効果があると考えている.次に,2017年のイベントについて議論する.この時は,2017年のはじめ頃より地熱域の拡大が生じ3月19日頃から山頂域の2箇所で熱泥水の小湧出が生じ,4月後半にはジェット噴気が噴気孔H,Aを形成した.特に噴気孔Aでジェット噴気が始まる際に,熱泥水の飛沫が拡散し南西200 mまで広がった.この現象は,「固形物が噴出場所から水平若しくは垂直距離概ね 100~300m の範囲を超すものを噴火として記録」(気象庁編,2014)から見れば噴火として良い現象である.この様なグレーゾーンイベントについて,情報伝達の混乱を生じさせないため考え方の見直しが必要になる.2018年噴火の詳細はTajima et al.(2020a)に記述したが,防災上の重要な点は4月19日に山頂域で始まった噴火に対して,4月20日21:05頃から西側に約500m離れた地点で礫の飛散を伴う噴火(硫黄山西火口)が生じたことである(Tajima et al., 2020a; Muramatsu et al, 2021).西火口は火口列と呼ばれる類の一種と考えられるが,より観光施設に近い所で発生したことは深刻であり災害因子の一つとして認識すべきである.自然公園財団えびの支部の元所長坂本謙太郎氏には,硫黄山周辺の防災対応に関するヒアリングで大変お世話になった.また,霧島ネイチャーガイドクラブの古園俊男氏を始めとしたクラブ員の方には現地でお世話になり,ここに感謝いたします.