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[SVC34-03] 地殻変動による阿蘇山の長期的な監視:熊本地震の余効変動補正手法の検討
キーワード:地殻変動、熊本地震、余効変動、阿蘇山、マグマだまり
阿蘇山は、2021年10月にも噴火をするなど、常時活動が活発な火山である。その長期的な活動予測のためには、地殻変動を通じてマグマだまりの体積変化を継続的にモニターすることが有効である。しかしながら、2016年4月に発生した平成28年(2016年)熊本地震の余効変動の影響で、長期的なマグマだまりの体積変化のモニタリングが困難となっている。そこで本研究では、熊本地震の余効変動のモデルを構築し、これを補正した上でマグマだまりの体積変化の抽出を試みた。
熊本地震の余効変動のうち、粘性緩和については、表層が弾性層、基板層がMaxwell粘弾性体の半無限2層構造を仮定して補正することとする。その際、地震断層モデルとしては矢来・他(2016)を使用し、構造パラメータ(粘弾性層の厚さ、基板層の粘性)については、地殻変動データからグリッドサーチにより推定する。また、余効すべりについては、地震断層モデルを含む面を小断層で離散化し、それぞれの小断層でのすべりを地殻変動データから推定する。また、また、マグマだまりの位置としては、先行研究(e.g. Nobile et al., 2017)に従い、草千里が浜の北部、深さ約4kmに設定した。
構造パラメータおよび余効すべりの推定の手順は以下のとおりである。まず、電子基準点で観測された地殻変動データについて、2013年1月から2016年1月のデータから線形速度を推定し、テクトニックな変動として除去する。次に、地震直後から2021年12月までの地殻変動データを用い、粘性緩和を補正したうえで、余効すべりとマグマだまりの体積変化の推定を行う。これをさまざまな構造パラメータの組み合わせについて行い、最も残差が小さくなる組み合わせ(弾性層の厚さ:20km、基板層の粘性9E18Pa・s)を採用した。次に、電子基準点で観測された地殻変動を1か月毎に離散化し、時間依存インバージョン(Segall and Matthews, 1997)を用い、各エポックにおける余効すべりとマグマだまりの体積変化を推定した。その際、テクトニックな変動および粘性緩和については、上述の手順に従いあらかじめ除去している。
推定されたマグマだまりの体積は、地震直後に大きく増加したあと、減少傾向を示す。地震直後の増加は、おそらく地震による応力変化を反映したものだと考えられる(Ozawa and Fujita, 2016)。また、2019年、2021年の火山活動が活発化した時期には体積の減少がゆるやか、あるいは停滞している。
なお、本研究で用いた粘性緩和モデルは簡易的なものである。先行研究では、例えば別府・島原地溝帯に対応した低粘性構造を考慮する必要が指摘されている(Pollitz et al., 2017)。また、余効すべりの一部として、阿蘇カルデラの深部に正断層的なすべりが推定されたが、これは、阿蘇カルデラについても周辺と同じ構造を仮定したことによるartifactの可能性があり、今後も粘性緩和モデルの精緻化に引き続き取り組む。
引用文献:
Nobile, A. et al (2017) Bull. Volcanol., 79, 32, https://doi.org/doi:10.1007/s00445-017-1112-1
Ozawa T. and E. Fujita (2016) Earth Planets Space, 68,186, https://doi.org/10.1186/s40623-016-0563-5
Pollitz, F. et al. (2017) Geophys. Res. Lett., 44. 8795—8803, https://doi.org/10.1002/2017GL074783
Segall, P. and M. Matthews (1997) J Geophys. Res., 102, 22391—22409, https://doi.org/10.1029/97JB10795
矢来博司ほか (2016) 国土地理院時報,128,169—176.
熊本地震の余効変動のうち、粘性緩和については、表層が弾性層、基板層がMaxwell粘弾性体の半無限2層構造を仮定して補正することとする。その際、地震断層モデルとしては矢来・他(2016)を使用し、構造パラメータ(粘弾性層の厚さ、基板層の粘性)については、地殻変動データからグリッドサーチにより推定する。また、余効すべりについては、地震断層モデルを含む面を小断層で離散化し、それぞれの小断層でのすべりを地殻変動データから推定する。また、また、マグマだまりの位置としては、先行研究(e.g. Nobile et al., 2017)に従い、草千里が浜の北部、深さ約4kmに設定した。
構造パラメータおよび余効すべりの推定の手順は以下のとおりである。まず、電子基準点で観測された地殻変動データについて、2013年1月から2016年1月のデータから線形速度を推定し、テクトニックな変動として除去する。次に、地震直後から2021年12月までの地殻変動データを用い、粘性緩和を補正したうえで、余効すべりとマグマだまりの体積変化の推定を行う。これをさまざまな構造パラメータの組み合わせについて行い、最も残差が小さくなる組み合わせ(弾性層の厚さ:20km、基板層の粘性9E18Pa・s)を採用した。次に、電子基準点で観測された地殻変動を1か月毎に離散化し、時間依存インバージョン(Segall and Matthews, 1997)を用い、各エポックにおける余効すべりとマグマだまりの体積変化を推定した。その際、テクトニックな変動および粘性緩和については、上述の手順に従いあらかじめ除去している。
推定されたマグマだまりの体積は、地震直後に大きく増加したあと、減少傾向を示す。地震直後の増加は、おそらく地震による応力変化を反映したものだと考えられる(Ozawa and Fujita, 2016)。また、2019年、2021年の火山活動が活発化した時期には体積の減少がゆるやか、あるいは停滞している。
なお、本研究で用いた粘性緩和モデルは簡易的なものである。先行研究では、例えば別府・島原地溝帯に対応した低粘性構造を考慮する必要が指摘されている(Pollitz et al., 2017)。また、余効すべりの一部として、阿蘇カルデラの深部に正断層的なすべりが推定されたが、これは、阿蘇カルデラについても周辺と同じ構造を仮定したことによるartifactの可能性があり、今後も粘性緩和モデルの精緻化に引き続き取り組む。
引用文献:
Nobile, A. et al (2017) Bull. Volcanol., 79, 32, https://doi.org/doi:10.1007/s00445-017-1112-1
Ozawa T. and E. Fujita (2016) Earth Planets Space, 68,186, https://doi.org/10.1186/s40623-016-0563-5
Pollitz, F. et al. (2017) Geophys. Res. Lett., 44. 8795—8803, https://doi.org/10.1002/2017GL074783
Segall, P. and M. Matthews (1997) J Geophys. Res., 102, 22391—22409, https://doi.org/10.1029/97JB10795
矢来博司ほか (2016) 国土地理院時報,128,169—176.