日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 火山の監視と活動評価

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 203 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、コンビーナ:宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)

14:35 〜 14:50

[SVC34-10] JVDNシステムと状態遷移図による分野を超えたデータ活用と連携の推進

*上田 英樹1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:JVDNシステム、状態遷移図、分野間研究、データベース

火山活動の推移を科学的に予測する基本的な方法は、調査や観測により様々な火山現象を長期間記録し、蓄積された記録を分析して活動の機構や傾向を明らかにし、明らかになった機構等と最新の記録から予測する方法である。調査や観測の方法は様々であり、また火山ごとに活動の機構や傾向は異なるものの、基本的な考え方は火山や観測手法によらず同じである。気象庁による火山監視もこの方法で行われている。この方法は、様々な火山現象や調査観測手法を扱うことから、単独の研究分野では難しく、分野を超えた連携や融合による研究(以下、分野間研究と呼ぶ)が必要である。高い精度での推移予測を実現するため、我々が行っている分野間研究を促進する取り組みについて紹介する。
分野間研究を推進するためには、まずどの分野の研究者も多くの種類のデータにアクセスできる環境が必要である。我々は、データの活用と連携を促進し、火山研究の発展と防災に貢献するため、2019年からJVDNシステムを運用している。JVDNシステムには、日本国内の研究機関、大学、行政機関等が収集したデータが集約され、データの表示やダウンロードができるようになっている。
現在JVDNシステムに集約されているデータは、主に地震計データやGNSSデータなど、すでにフォーマットや利用ルールが決まったデータである。内閣府の降灰調査データ共有スキームでは、これまで各研究者がそれぞれ取得していた降灰調査データについて、データフォーマットと利用ルールが決められ、新たにJVDNシステムにて共有されるようになった。利用のガイドラインに従えば、他の分野の研究者でも降灰調査データを利用することができる。今後、他の分野でも同様にデータフォーマットと利用ルールが決められれば、JVDNシステムを通じてデータの利用がより盛んになると考えられる。またJVDNシステムには、任意の電子ファイルを提供できる機能があり、データ提供者が自由に利用ルール、フォーマットを指定して、電子ファイルを提供できる。この機能を使えば、独自のフォーマットのデータや開発したプログラム等も他の研究者と共有することができ、分野間研究を進めることができる。
分野間研究とは単独の研究分野では解決が困難な課題について、二つ以上の分野を統合して横断的に進めて行く研究である。活動推移の予測や火山の総合的理解など、単独の分野では解決困難な課題を、研究者が協働で取り組む共同研究や、ある研究分野の研究成果を別の分野に応用して研究を行うことで課題を解決する研究のことである。それぞれの研究分野で研究を行って定期的に合同の研究集会を開いて情報共有するというレベルの連携ではない。JVDNシステムによって他の分野のデータにもアクセスできるようになったものの、ほとんどは専門的なデータであり、他の分野の研究者には扱うことが難しい。ある分野の専門家は、別の分野の専門家ではないため、分野間研究を促進するには、データや研究成果が非専門家でも活用できる形になっている必要がある。JVDNシステムでは、データを他の分野の研究者でも扱えるよう、処理したデータや可視化した画像データも提供している。
さらに我々は、分野間研究を促進するため、状態遷移図という図を使って火山活動の推移を表現することを提案している。状態遷移図とは、システム設計に使われているシステムの振る舞いを表す図である。様々なデータに見られる変化や異常の特徴から、火山の状態をいくつか定義し、火山活動の推移を状態の遷移で表現している。一般的に設計図とは、異なる分野の専門家が協働で製品を作ったりシステムを開発するときに情報共有のために使われている図である。設計図は分野に寄らず、専門家も非専門家も理解できるため、火山活動の推移を設計図で表現することによって、活動推移の予測に関する問題に関する分野間研究に利用できる。状態遷移図は、火山同士の比較研究にも使うことができる。状態遷移図を比較することによって、火山が持つ普遍的な性質を見出すことができ、普遍的な性質から火山活動の推移を予測できると考えている。