日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 火山の監視と活動評価

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (17) (Ch.17)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、コンビーナ:宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所、SVC34_29PO1)

11:00 〜 13:00

[SVC34-P01] 観測困難域における火山観測と活動評価における意義

*大湊 隆雄1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:火山、観測困難地域、火口近傍観測

火山観測は観測目的に応じて、大きく定常観測と臨時観測に分けることができる。噴火予測という観点からは、対象とする火山周辺で長期間継続的にデータを取得し、噴火への準備過程や噴火直前の変化を検出するという手法が一般的であり、噴火予測を主たる目的とする観測は定常観測が主体となる。しかし、定常観測は電力や通信が安定して確保でき、メンテナンスのためのアクセスが容易でなければならないため、火口から離れた場所に限られた数を展開する場合が多い。一方、火山現象の理解という観点からは、火口から離れた観測網や少数の観測点から成る観測網よりは、たとえ観測期間が短かくても、火口近傍あるいは多点で実施する観測が必要になる場合がある。しかし、火口近傍は一般にアクセスが難しく、観測網を長期間維持することは容易ではない。活動中の火山での場合、火口近傍への接近が難しく観測そのものが難しい。離島火山も観測が困難であり短期間あるいは少数であっても観測を実施すること自体に価値がある。

本稿では火口近傍や離島などの観測困難域における観測の事例として、浅間山における火口近傍での臨時観測、口永良部島における無人ヘリによる火口近傍観測、西之島における上陸観測の3事例を紹介し、このような観測が活動評価においてどのような役割を果たすのかを議論する。

浅間山:地震研究所では浅間山における定常観測を長期にわたり行っているが、2000年代初めまでは火口に最も近い観測点でも1.2㎞離れていた。その後、火口縁東西に広帯域地震計を設置し、山体周辺の観測網を徐々に広帯域化した。2008年から2009年にかけては山頂付近に臨時地震観測点を10点追加し、火口近傍において計14点から成る広帯域地震観測を半年程度実施した。この観測により火口浅部のVLPの位置や震源のメカニズムなどの理解が進み、臨時観測終了後も火口近傍の少数の定常観測点によるデータから火山活動を評価することが可能になった。

口永良部島:火口付近において観測を実施し活動状況を把握することは重要であるが、一旦噴火が開始すると火口近傍観測網は被災し易く、火山活動把握が困難になる場合がある。そのような状況への対応例として、2014年から2015年にかけて噴火した口永良部島の事例を紹介する。口永良部島では2014年8月に34年振りの噴火が発生し、諸機関が運用していた山頂付近の観測網は全て被災し、火山活動を十分に把握することができなくなった。当時地震研究所では、無人ヘリによる観測装置の設置技術開発を進めており、2015年4月に火口付近に4点の地震観測点を設置した。この観測点は同年5月の噴火で失われたが、9月に無人ヘリによる観測点設置を再度実施し5点を設置した。この観測により、山頂付近に人が接近して観測点を再構築できるようになるまでの間、山頂付近の地震活動を把握する手段を提供することができた。

西之島:小笠原諸島の西之島は本州の約1000㎞南に位置し、最も近い人が居住する父島からでも100㎞離れた離島であり、アクセスが極めて難しく、島内観測を実施することは容易ではない。2013年11月に始まった火山活動はその後も消長を繰り返しながら現在も継続しており、現在までの活動は4つの期間に分けることができる。地震研究所では、2016年10月の上陸調査時に衛星通信機能を持つ地震・空振観測点を設置し、第2期の活動初期のデータを得ることができた。第3期活動後の2019年9月に再度上陸し設置した観測機器は、2019年12月に始まった第4期の活動開始からの地震・空振信号を捉え、活動最盛期の直前までのデータを送り続けた。2度の観測はいずれも1観測点によるものであるが、火口から500mの近距離における地震・空振観測であり、火口位置が限定されていることを考慮して解析を行う事により噴火過程に関する情報が得られる見込みである。この観測は、離島火山における観測手段の一例を示すとともに噴火推移に関する重要な情報をもたらした。

これらの事例が示す通り、観測が困難な場所における臨時観測は、火口近傍観測あるいは多点観測により通常は得られないデータを得ることができるため、火山プロセスを理解することに大きく寄与し、観測対象や観測内容の絞り込みに繋がることから、定常観測の効果的な配置やデータ利用にも間接的に寄与する。観測が比較的容易な場所における定常的観測と観測困難地域における臨時的観測は、火山プロセスを理解する上で互いに相補的な役割を果たすものであり、両者を効果的に組み合わせつつ活用することが重要である。