日本地球惑星科学連合2022年大会

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[U-06] 日本の学術出版とオープンサイエンス、オープンデータ

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小田 啓邦(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、コンビーナ:川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、座長:小田 啓邦(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)

09:15 〜 09:30

[U06-02] 地球惑星科学における書籍出版の現状と課題

★招待講演

*小松 美加1 (1.東京大学出版会)

キーワード:学術出版、書籍、学術書、教科書、教養書

学術出版社で長年地球惑星科学関連の書籍の編集に関わってきた経験から,日本における書籍の学術出版の現状の概要と課題についてお話したい.

学術出版において,大学出版部は海外でも日本でも大きな役割を担ってきた.私の所属する東京大学出版会は昨年創立70周年を迎えたが,「大学における研究とその成果の発表を助成することで,学問の普及,学問の振興を図る」を使命として,学術書・教科書・教養書を3本の柱に出版活動を続けてきた.最先端の研究成果を世に問う「学術書」,大学の教育に欠かせない「教科書」,そして大学と社会一般をつなぐ「教養書」,という位置づけである.

地球惑星科学関連で例をあげれば,学術書としては大部なデータブック(『日本の活断層』『日本被害地震総覧』など)や様々な専門書(モノグラフ),教科書としては『一般気象学』『写真と図でみる地形学』など,教養書としては2年前にJpGUの30周年を記念して出版された『地球・惑星・生命』などが挙げられる.

漫画や小説・ビジネス書などと違い,学術出版は多品種・少部数の地味なマーケットである.日本の出版業界は1997年から縮小の一途をたどっているが,学術出版ももちろん例外ではなく,どの出版社も厳しい状況が続いている.「若者の活字離れ」現象などは半世紀前くらいから言われているし,いまや「情報」を得るのには本よりインターネットのほうがずっと適しているのは間違いない.(このコロナ禍で少し活字回帰が起こってはいるが….)

それでもやはり「書籍」「本」は重要で欠かせないものと信じて出版活動を続けているのは,1冊の「本」はその著者が作りだす1つの世界であるからである.(電子出版で章ごとに切り売りしています,と聞くと,取扱い説明書じゃあるまいし,と強く思う.)編集者としては,著者がその本で伝えたいことを一番よい形で世に送り出すことを使命と考えている.企画の諾否から本の位置づけ,目次構成の検討と組み直し,版面レイアウト,図表の配置,文章の校閲や表現の統一,複数回の校正,読者対象の設定,最適で印象的な装丁デザイン,宣伝・販売戦略まで,紙への印刷媒体であろうと,電子媒体であろうと,そのプロセスは変わらない.

海外では,書籍でもオープンアクセス化が進んでいると聞くが,英語ではなく日本語のみの狭いマーケットではビジネスモデルとしてなかなか成り立ちにくいのではないか.旧態依然の編集者としては,むしろ,雑誌論文投稿でオープンアクセスについて経験の豊富な皆様方から示唆をいただければ幸いである.

そのほか,学術出版における電子出版の現状や,今後の地球惑星科学における書籍出版の見通しについても触れたい.