日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG34] 地球規模環境変化の予測と検出

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:河宮 未知生(海洋研究開発機構)、立入 郁(海洋研究開発機構)、建部 洋晶(海洋研究開発機構)、V Ramaswamy(NOAA GFDL)、座長:立入 郁(海洋研究開発機構)

11:00 〜 11:15

[ACG34-07] 地球システムモデルMIROC-ES2L-CHEMを用いた大気中メタン消失量の将来予測

*関谷 高志1羽島 知洋1須藤 健悟2,1金谷 有剛1河宮 未知生1 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、2.名古屋大学 大学院環境学研究科)

キーワード:メタン、大気化学、地球システムモデル

メタン、オゾン、エアロゾルなどの短寿命気候強制因子(short-lived climate forcers; SLCFs)は、二酸化炭素よりもはるかに寿命が短く、その削減はパリ協定の目標達成に向けた短期的な気候緩和に貢献することが期待されている。メタンは強力な温室効果ガスであり、その正確な予測には地球上のメタン収支の把握が必要である。全球規模のメタン収支に最大の不確定要素の一つは、大気中の化学消失であり(Saunois et al., 2020)、これは主にメタンと水酸化ラジカル(OH)の反応によって決定される。OHは、大気汚染物質や気候変動の影響を受ける対流圏化学の重要な化学種であり、その変化予測には緩和シナリオや気候モデルによって大きなばらつきがある(Voulgarakis et al., 2013)。本研究では、大気化学モジュールCHASER(Sudo et al., 2002)と結合した地球システムモデルMIROC-ES2L(Hajima et al., 2020)(以下、MIROC-ES2L-CHEMとする)を用いてOHの将来変化を評価し、AerChemMIPモデルとの比較検討を行った。MIROC-ES2L-CHEMを用いた場合、対流圏の質量加重平均OH量は、SSP3-7.0シナリオ下で現在(2005-2014)から将来(2046-2055)にかけて9.0%減少すると予測され、AerChemMIPマルチモデル平均の6.5±1.2%と比較して大きな減少を示した。北半球中緯度域では、MIROC-ES2L-CHEMによる減少率(14.2%)はAerChemMIPモデル(5.6±2.8%)よりも大きく、アマゾンでの変化は異なるモデル間で-13.0%から13.7%の幅であった。さらに、現在の海面水温(SST)で固定した2015-2055年の感度シミュレーションからは、SLCF排出量の変化によるOHの減少(15.0%減)を気候変動によるOHの増加(6.0%増)が一部相殺することが確認された。これらの排出に起因するOH減少及び気候に起因するOH増加は、AerChemMIP モデルよりも大きかった (それぞれ -9.5±1.3% と 3.8±1.5%) 。これらのモデル間の差異は、部分的にはメタン-OHフィードバック(AerChemMIP モデルのフィードバック係数 1.34-1.36 に対して MIROC-ES2L-CHEM ではフィードバック係数 1.46)、及び生物起源の揮発性有機化合物(BVOCs)放出と雷NOx生成を通じた気候-化学相互作用に起因する。将来のOH変化の要因を明らかにするためには、さらなる調査が必要であると考えられる。