日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、浅野 友子(東京大学)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACG42-P05] 深層学習によるセマンティックセグメンテーションを用いた連続流量観測手法の開発

*荒居 香織1、林 雨亭1、佐藤 匠1、工藤 圭史1 (1.国際航業株式会社)

キーワード:河川流量、水文調査、流量観測、静止画像、画像解析、機械学習

河川管理において最も重要な流量データの取得では、労力とコストを伴うことが多く、また、流量観測の場所や観測時の気象等の条件によっては安全確保も重要な課題である。そこで、河道内の流速に流路断面積を乗じて流量を求めるという従来の流量観測の方法から発想を転換し、静止画像から流量を推定できる観測方法を開発した(工藤ほか, 2022)。この技術は、データ容量が小さな静止画像1枚からでも流量を算出することができるものであり、河川区域外であっても河川を撮影できる地点であれば、カメラの設置位置に制約はないことが特徴である。流量の算定では、機械学習(Trainable Weka Segmentation; Arganda-Carreras et al., 2017)を利用し、静止画像から水域のセグメンテーションを行い、水域にあたる範囲のピクセルを抽出した。そして、水面幅や水域面積とその流量の関係を統計処理し、静止画像の水域のピクセル数から流量の推定を行った。
この方法の大きな課題として、水域のセグメンテーションが難しい静止画像については、流量の誤差が大きいことが挙げられる。この課題を解決すべく、深層学習によるセマンティックセグメンテーションを用い、画像から水域を抽出する手法を検証した。具体的には、2000枚以上の河川画像から作成したオリジナルデータセットとオープンソースのデータセットであるAtlantis(Erfani et al., 2022)を利用し、3つの深層学習モデルによるセマンティックセグメンテーションを学習し、それぞれの結果を比較した。
検証では、DeepLabV3+(Chen et al., 2018)、PointRend(Kirillov et al., 2020)、SegFormer(Xie et al., 2021)の3つの深層学習モデルを用いて、水域のセマンティックセグメンテーションを行い、静止画像から河川幅と水域面積を求めた。検証地点は、静止画像を撮影するカメラの他に、流量観測が行われている場所を選定した。セマンティックセグメンテーションにより求めた河川幅または水域面積のピクセル数と実測流量の関係式を作成し、静止画像から流量の推定を行った。その結果、工藤ほか(2022)による機械学習を用いたセマンティックセグメンテーションと同様に、3つの深層学習モデルを用いた場合においても、実測流量と河川幅および水域面積のピクセル数との間には明瞭な相関性が認められた。それぞれのセマンティックセグメンテーションの手法において、流量の値に大きな差は出なかったものの、SegFormerの結果が最も水域の誤検知が少ない結果となり、静止画像1枚から流量を推定する十分な精度が得られた。
一方で、太陽光の入射角が低い場合や、小さな礫が散らばる河原、影が大きく映り込む静止画像については、セマンティックセグメンテーションによる水域抽出が難しい場合もあった。今後は、セマンティックセグメンテーションの精度を向上させるため、ノイズの大きな画像の教師データへの追加や、入力する画像の前処理手法の検討などを行う予定である。