日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 黒潮大蛇行

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:西川 はつみ(東京大学 大気海洋研究所)、平田 英隆(立正大学)、美山 透(国立研究開発法人海洋研究開発機構・アプリケーションラボ)、日下 彰(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所 )


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACG43-P05] 黒潮大蛇行に伴う暖水域と冷水域が紀伊半島周辺の降水に与える影響

*森田 直樹1立花 義裕1 (1.三重大学 生物資源学研究科)


キーワード:2011年台風Talas、黒潮大蛇行、豪雨、海水面温度、海岸地域

紀伊半島は日本有数の豪雨地帯であり、2011年9月の台風12号Talasは紀伊半島に豪雨をもたらした。この台風は970hPaまでしか発達しなかったが、平均速度は11.1km/hと非常にゆっくりした動きであった。レーダーアメダス解析雨量によると、8月30日から9月5日までの総雨量は紀伊半島の広い範囲で1,000mmを超え、2,000mm以上の雨量となった地域もあった。死者・行方不明者は98人に達し、全壊家屋は379棟、半壊家屋は3,159棟、床上浸水は5,500棟、床下浸水は16,594棟に達した(内閣府 平成23年台風12号による被害状況)。これが都市部であれば、何倍もの被害が出た可能性がある。
 紀伊半島の多雨は、半島の南を流れる暖流の黒潮の影響だと言われているが、この問題を扱った研究論文は少ない。黒潮は日本近海に熱帯の暖流を供給し、大量の水蒸気と熱が黒潮から上空の大気に運ばれる(Kubota et al.2008、Bond and Cronin 2008)。したがって、紀伊半島の気象・気候は、黒潮の影響を大きく受けていることが推測される。最近、2018年夏から黒潮大蛇行が始まり、現在、観測史上最長となっている。大蛇行時の紀伊半島周辺の海水温も、非蛇行時とは大きく異なっている。特に、大蛇行がない時期に比べて、東海道沖に暖水塊、紀伊半島沖に冷水塊があることが大きな特徴である。
 もし、近年のような黒潮の大蛇行が2011年に起こっていたとしたら、降水量はどのように変化しただろうか?この問いに答えることで、気象・海洋学や防災の様々な視点が得られるであろう。さらに、黒潮大蛇行のような水平方向に小さなスケールの海面水温偏差は、台風の降水量にどの程度の影響を与えるのだろうか?もし十分大きいのであれば、黒潮の蛇行を予測し、地球温暖化で蛇行が起こりやすいかどうかを把握することは防災の観点からも重要である。
 数値実験の結果、東海道沖の暖水塊が水蒸気フラックス、潜熱フラックス、顕熱フラックスを増加させることが分かった。その結果、紀伊半島東部で300mm程度の降水量の増加、紀伊半島中部で400mm程度の降水量の減少につながる可能性があることが分かった。さらに、このような局所的な降水量の偏在だけでなく、紀伊半島の大部分を含む地域の期間平均降水量が80mm以上増加する可能性もあることも分かった。
 以上のことから、台風12号Talasのような台風に備えるための防災上の観点として、黒潮の流路や蛇行傾向、それに伴う海面水温分布のより一層の注意深い監視が必要不可欠である。