日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW18] 流域圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸海域まで

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:細野 高啓(熊本大学大学院先端科学研究部)、伴 修平(公立大学法人 滋賀県立大学)、齋藤 光代(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 )、Adina Paytan(University of California Santa Cruz)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AHW18-P21] 堆積物有機物の蛍光特性から読み解く姉沼の環境変遷

*千葉 直弥1眞家 永光1、静 一徳2、樽屋 啓之1 (1.北里大学、2.青森県産業技術センター内水面研究所)


キーワード:環境変遷、富栄養湖、蛍光分析、湖底堆積物、有機物

湖沼には,流域から土壌などが流入・堆積するとともに,湖沼内で増殖した植物プランクトンの遺骸や,沿岸帯植物などが堆積する.底質の有機物は,その起源や続成過程によって質が異なるため,底質の有機物の質を調べることより,堆積物を取り巻く環境,つまり,その時の湖沼環境について理解を深めることが出来る.そこで本研究は,青森県上北郡東北町に位置する小川原湖沼群に属する姉沼を調査対象地した.姉沼は過栄養湖の淡水湖であり,水質悪化が著しい.そのため,姉沼の堆積物を調査することより,これまでの環境変遷を明らかにし,今後の水質改善に役立てることができると考えた.柱状堆積物は,2019年に姉沼湖心においてグラビティコアラーを用いて深さ3.4mまで採取した.柱状堆積物は4cm厚にスライスし,その中のアルカリ可溶性有機物を抽出し,その質を,サンプル処理能力が高く,高感度に有機物の組成の違いを検出できある蛍光特性に着目して評価した.蛍光成分組成は,三次元蛍光スペクトルを測定し,PARAFACモデルを用いた統計解析により,起源や構造の異なる10個のPARAFAC成分に分離することにより調べた.
本発表においては,得られたPARAFAC成分から,以下の3つの指標を用いて姉沼の環境変遷について考察した(1)泥炭や黒ボク土の腐植によって生成されるC1/C3蛍光強度比,(2)酸化的環境の陸域由来によって生成されるC5蛍光成分,(3)多くの藍藻類に含まれるタンパク質によって生成されるC10蛍光成分である.
本発表においては,得られたPARAFAC成分から,以下の3つの指標を用いて姉沼の環境変遷について考察した.(1)C1/C3比;湖沼周辺の低湿地土壌と黒ボク土壌の相対的な寄与度の指標. C1成分(Exmax/Emmax=<260, 445nm/510nm)は,腐植化度が低い陸域由来フミン酸に多く含まれ,C3成分(Exmax/Emmax=265, >470nm/>550nm)は,腐植化度の高い黒ボク土由来フミン酸に多く含まれる.(2)C5成分強度変化;陸域から河川へ流入する陸域由来の有機物量の指標.C5成分(Exmax/Emmax=<260nm/444nm)は,有機物が光分解や酸化分解を強く受けることで生成される陸域由来のフルボ酸である.(3)C10成分強度変化;プランクトンの湖内生産性の指標.C10成分(Exmax/Emmax=275nm/340nm)は,タンパク質様物質成分である.タンパク質はアオコの主要種である藍藻類を含むプランクトンの主要な構成成分である.本研究より,極端な気象による流域からの多量の有機物の流入,小川原湖からの姉沼の分離や,湖沼形態の変化,富栄養化など,約1000年間における湖沼環境の遷移について理解を深めることができたので紹介する.