日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

コンビーナ:和田 茂樹(筑波大学)、高橋 大介(東海大学)、永井 平(水産研究教育機構)、増永 英治(Ibaraki University)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AOS17-P06] 西表島網取湾における台風時を含む水温・流速の特徴とそれらの沿岸海洋生態系への影響について

*下川 信也1村上 智一1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:西表島、物理環境、台風、サンゴ

西表島の崎山湾・網取湾自然環境保全地域は、国内唯一の海域の自然環境保全地域であり、そこに至る陸路がなく集落から離れているため、人為的影響の少ない自然環境が保持されており、多様な沿岸海洋生態系を有している。また、外洋に面した礁斜面の岩礁、急激な水深変化、内湾の砂泥底、湾奥河口近くの低塩分域等の多様な空間的環境勾配と共に、台風や大陸からの季節風等の時間的環境勾配も有している。その影響をサンゴ等の沿岸海洋生態系も強く受ける。
我々は、2011年から西表島網取湾において、台風時を含む水温・流速等の観測、及び、サンゴ等の沿岸海洋生態系の分布調査を実施してきた(文献1-5)。本発表では、本湾における台風時を含む水温や流速の特徴を示すと共に、サンゴの分布等への影響についても考察を加える。主な結果は、以下のようになる。
・表層の水温の変動は、気温の変動にほぼ同調している。夏季には、成層が発達し、表層と下層の水温は大きく異なるが、冬季には、成層が崩れ、その差は小さくなる。
・夏季の下層の水温には、表層の変動とは異なる周期的な水温の低下がみられる。その周期は、慣性振動の周期(約1.25日=0.5日/sin24°)に近い。この水温の低下(低温水塊の流入)は、夏季のサンゴの生残に影響を与えると考えられる。
・台風が来襲すると、その強い波や流れによる鉛直混合により、急激な水温の低下が起こる。2016年に起こったサンゴの大規模な白化は、その年の夏季に台風の襲来が遅れたことによる高海水温の長期化が原因であったと考えられる。
・網取湾を通過する台風の経路の違い、すなわち、25m/sを越える風速を持つ台風であっても湾内への風向の違いによって、流速の発達や上層から下層への運動量輸送に明確な違いがある。
・特に、風向が湾口から湾奥へ向かう台風時には、鉛直方向の流速の逆転(上層の流速<下層の流速)が起こることがある。この下層での強い流速は、その場所で発達するサンゴの形態や生残に影響を与えると考えられる。

参考文献:
1. Shimokawa, S., T. Murakami, A. Ukai, H. Kohno, A. Mizutani, K. Nakase, 2014, Relationship between coral distributions and physical variables in Amitori Bay, Iriomote Island, Japan, J. Geophys. Res.: Oceans, 119, 8336- 8356, https://doi.org/10.1007/s11069-014-1277-2.
2. 村上智一・河野裕美・中村雅子・玉村直也・水谷晃・下川信也,2017,西表島網取湾のサンゴ鉛直分布における白化現象とその物理環境,土木学会論文集B3(海洋開発),73,881-886.
3. Shimokawa, S., T. Murakami, H. Kohno eds., 2020, Geophysical Approach to Marine Coastal Ecology -The Case of Iriomote Island, Japan, Springer, Singapore, 273 pp., ISBN-978-981-15-1129-5.
4. 石川綾乃・小笠原敏記・村上智一・河野裕美・水谷晃・下川信也,2020,西表島網取湾における長期定点観測による台風時の海水流動特性,土木学会論文集B2(海岸工学),76,127-132.
5. Shimokawa, S., T. Murakami and H. Kohno, 2023, Coral distribution and diversity in Sakiyamawan–Amitoriwan nature conservation area of Iriomote Island in Japan, Geoscience Letters, 10, https://doi.org/10.1186/s40562-023-00263-0 (6:1-10).