日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

コンビーナ:和田 茂樹(筑波大学)、高橋 大介(東海大学)、永井 平(水産研究教育機構)、増永 英治(Ibaraki University)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AOS17-P10] 八代海南部海域(水俣湾)における植物プランクトンの基礎生産量と沈降フラックスの季節変化

*小森田 智大1、中村 双葉1、田中 智己1、一宮 睦雄1、山田 勝雅3、金谷 弦4、吉野 健児2 (1.熊本県立大学環境共生学部、2.国立水俣病総合研究センター、3.熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター、4.国立環境研究所)

キーワード:基礎生産、沈降フラックス、八代海

九州西部に位置する八代海は,九州本土や天草諸島などに囲まれる閉鎖的な内湾であり,北部海域は一級河川である球磨川の影響を受けるとともに,南部海域は牛深長島海峡と黒瀬戸海峡から流入する対馬暖流由来の外海水の影響も受けている.八代海においては特に漁類養殖が産業としては重要であり,漁業被害を引き起こす植物プランクトンの増殖生態や発生予察が進められてきた.赤潮プランクトンの発生や維持機構を解明するためには低次生態系における生物過程と物理過程の双方を考慮した生態系モデル開発の必要性が指摘されている.しかし,八代海においては生態系モデルを構築する上で必要不可欠な基礎生産量に関する知見がない.さらに,魚類養殖場の影響を受けない海域における海底への有機物の沈降量(沈降フラックス)などの低次生産過程についての知見は極めて限られている.沿岸域における生態系サービスを持続的に活用するためにも,上述の低次生産過程に関する基礎的な情報は必要不可欠である.
本研究は八代海南部海域に位置し,魚類の養殖を行なっていない水俣湾において,2021年10月から2022年7月にかけて水質観測を実施した.さらに現場海水を用いた室内培養実験で植物プランクトンの基礎生産量を測定するとともに,セディメントトラップにより沈降粒子を採集し,沈降フラックスを求めた.これらの結果から,水俣湾における基礎生産量,沈降フラックスおよび沈降粒子の起源の季節変化を明らかにし,八代海南部海域における低次生産過程の特徴を考察する.
本研究の対象海域である水俣湾と袋湾は八代海の南部に位置する魚類養殖が行われていない内湾である.本研究では,2021年10月から2022年7月まで,月に1回の頻度で船舶を用いた野外調査を実施した.調査定点では,まず多項目水質計(AAQ,JFEアドバンテック)を用いて水温,塩分,クロロフィル蛍光,溶存酸素濃度(DO)および光合成有効放射(PAR)を0.1 m間隔で測定した.次に,清浄なバケツおよびニスキン採水器を用いて0 m,2 m,5 m,および海底から直上1 mで採水した.採水試料は,栄養塩類,溶存無機態炭素(DIC),クロロフィル-a(Chl-a)濃度の定量,および基礎生産の培養実験に用いた.次に,6本のアクリル製コア(内径3.6 cm・高さ30 cm)をセットしたセディメントトラップを各地点に1基ずつ海底から直上2 mの水深に約24時間設置し,沈降粒子を捕集した.回収したトラップ内の試料はガラス繊維製ろ紙でろ過し,懸濁態有機炭素(POC),懸濁態窒素(PN),Chl-a,炭素・窒素安定同位体比測定用試料とした.基礎生産量の培養実験は,各層で得られた試料をポリカーボネート製培養瓶に分取し,NaH13CO3を最終濃度が約200 μMになるように添加した後,4段階の光条件(100,10,1,0 %)で,現場水温で約3時間培養した.培養試料のろ過後,Hama et al.(1981)に基づき,基礎生産量を算出した.
基礎生産量については,いずれの地点でも冬季および雨季に高くなる傾向があることが示され,水俣湾では6月に675±24 mgC m-2 d-1,袋湾では12月に303±4 mgC m-2 d-1と最大となった.POCフラックスは,水俣湾と袋湾でそれぞれ4月に862 mgC m-2 d-1ならびに607 mgC m-2 d-1と最小値を示し,11月に1,806 mgC m-2 d-1ならびに1,104 mgC m-2 d-1と最大値を記録した.Chl-aフラックスにおいても同様の傾向を示し,両者の回帰直線の傾きより沈降粒子のC/Chl-aは水俣湾で64.0 (r2 = 0.602,p < 0.01),袋湾で54.4 (r2 = 0.504,p < 0.02)となった.得られたC/Chl-aをChl-aフラックスに乗じることで,植物プランクトン態POCフラックスを求めたところ,植物プランクトンの沈降フラックスはPOCフラックスの7%から52%を占めた.このことから,水俣湾においては海底へのPOCフラックスに対して植物プランクトンの寄与が小さいことが分かる.さらに植物プランクトン態POCフラックスと同日の基礎生産量を比較したところ,その比は概ね1程度を推移した.このことから八代海南部に位置する内湾では植物プランクトンによる基礎生産物の大半が海底に沈降することが示された.