日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] 地球生命史

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

16:15 〜 16:30

[BPT04-04] 浮遊性有孔虫Pulleniatina obliquiloculataの遺伝子型における殻形態の違いと成長に伴う変化

*井熊 一翠1鈴木 拓馬2、木元 克典3、岡本 隆4氏家 由利香2 (1.高知大学理工学部生物科学科、2.高知大学海洋コア総合研究センター、3.海洋研究開発機構、4.愛媛大学)


キーワード:形態計測、浮遊性有孔虫、遺伝子型、隠蔽種、殻サイズ、殻形成

リザリアに分類される浮遊性有孔虫は,炭酸塩の殻が化石として堆積物中に保存されるため,多様性,進化,古海洋環境の復元などの研究で重用されている.従来,浮遊性有孔虫の種は殻の形態に基づいて分類されてきたが,リボソーム遺伝子を用いた分子系統解析の研究が進み,1つの形態種に複数の遺伝的に異なる種(生物学的種)が存在することがわかってきた.これら多くの遺伝子型は特異な地理的分布を示すことから,各々が異なる生態的特徴を持つ可能性がある.遺伝子型レベルでの生態的特徴を化石個体まで広く適用し、進化や環境変動の研究を発展させるには、殻形態によって遺伝子型を同定する必要がある。しかし,浮遊性有孔虫の殻は,チャンバー(殻室)をらせん状に付加させて成長する複雑な構造を持つため,殻の立体構造を定量的に測定することが難しい.そこで本研究では,2次元・3次元の形態計測を行うことによって,遺伝子型間の殻形態の違いの検出を試みた.
Pulleniatina obliquiloculataは熱帯・亜熱帯海域で広く分布する浮遊性有孔虫である.本形態種には特異的な地理的分布を示す3つの遺伝子型があり,分岐年代推定から鮮新世・更新世における熱帯海域の発達とともに進化したと考えられてきた(Ujiié and Ishitani, 2016).したがって,これら遺伝子型は環境と生物の進化を追究する上で格好の研究材料となるが,殻形態の違いは検出されておらず,隠ぺい種として扱われてきた.本研究では,太平洋赤道中央部で採取された102個体(遺伝子型タイプI:34個体,タイプII:68個体)の殻を使用した.有孔虫の形態分類に要する3側面のうち,主口孔(アパーチャー)面に沿って,デジタルマイクロスコープで取得した2次元画像を用いて殻の長軸や短軸,面積,最終チャンバーの長軸や短軸,主口孔の開口角度など11項目の計測を行った.これは,主口孔の形状:幼体(半円状)・成体(アーチ状)によって分類が可能なためである.また,マイクロフォーカスX線CT撮影によって3次元画像解析を行い,チャンバー数の計測,チャンバーごとの重心の抽出,幼体時の殻形態の計測を行った.2次元画像の殻面積によって幼体と成体が区分され,さらに殻の長軸と短軸の比から、幼体は楕円形,成体は円形という異なる殻形状を持つことが示された.また3次元画像解析の結果,成体のチャンバー数は幼体よりわずかに2~3チャンバー多いだけであることが分かった.このように,本形態種は成熟期に向けた成長段階において,大きなチャンバーを形成することによって急速に体サイズが大きくなり,形状も変化する特徴が示された.一方、遺伝子型間(タイプIとタイプII)を比較すると,2次元画像の殻面積によってタイプIIがタイプIより有意に大きいことがわかった.しかし,最後のチャンバー数の増加率に比べて,殻全体のサイズの増加率は小さい.これは重心の軌道を基に算出したチャンバー間における曲率の解析の結果から,タイプIIの巻きがチャンバーの重心同士をつないだ平面上での角度が小さくなる(つまり巻がきつくなる)ためと考えられる.また,幼体の個体では,2次元画像に基づく主口孔のアーチの高さが遺伝子型によって有意に異なることがわかった.このように,成体・幼体の形態解析により2つの遺伝子型間の形態的な違いを示すことができた.また,成長に伴って殻の形状が大きく変化することから,栄養摂取などの生態的な要因により遺伝子型間で成長速度が異なる可能性が示唆された.

引用文献
Ujiié Y, Ishitani Y. 2016. Evolution of a Planktonic Foraminifer during Environmental Changes in the Tropical Oceans. PLoS ONE 11(2): e0148847. doi:10.1371/journal.pone.0148847