日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 圏外環境における閉鎖生態系と生物システムおよびその応用

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加藤 浩(三重大学 研究基盤推進機構 先端科学研究支援センター)、篠原 正典(帝京科学大学)、安部 智子(東京電機大学理工学部)、座長:加藤 浩(三重大学 研究基盤推進機構 先端科学研究支援センター)、篠原 正典(帝京科学大学)、安部 智子(東京電機大学理工学部)

14:22 〜 14:39

[HCG24-03] 人工閉鎖生態系生命維持システム内の物理化学処理と生物処理の問題点整理

★招待講演

*中根 昌克1 (1.日本大学理工学部)

キーワード:閉鎖生態系生命維持システム、物理化学処理、生物処理

Environmental Control and Life Support System (ECLSS)は、系内で人間の生存に必要な物質を供給し、人間が生存できる環境を維持する。そのなかでもControlled/Closed Life Support System (CELSS)は、系内での必要な物質をできうる限り再生し循環を行いつつ環境を維持することを目標としており、最終的に目指すべきECLSSの形といえる。
系内で必要となる物質再生の機能として、「二酸化炭素から酸素を作る」、「廃棄水から中水・上水を作る」、「廃棄物を処理し、二酸化炭素や植物肥料を作る」、「有害気体を分離・処理する」などがあげられる。これらを具体的に行うために、物理化学処理に基づくものと、生物処理に基づくものが存在する。例えば、「二酸化炭素から酸素を作る」、物理化学処理を用いた方法は以下の3つの機能に分かれる。1.混合気体から二酸化炭素を分離する。2.Bosch反応もしくはSabatier反応を用いて二酸化炭素を水にする。3.水を電気分解する。一方、生物処理を用いた方法は、植物の光合成を利用したものとなる。また別の例として、「廃棄物を処理して二酸化炭素や植物肥料を作る」物理化学処理を用いた方法としては、湿式酸化反応を用いた方法や燃焼・焼却を用いた方法がある。一方、生物処理の方法としては微生物などを用いて廃棄物処理を行うものであり、メタン発酵などの方法がある。
一般的に、物理化学処理を基礎とした方法は1つの要素(機器)が1つの機能を賄い、処理量は少量から大量まである程度自由に設計できる。また設計された所定の量の原料から所定の量の生成物をほぼ得ることができ、同じ機器で処理量が大きく変化することは少ない。一方で機能1つ1つに装置が必要であるため、装置種数は多くなりがちであり、また極大量の物質を処理しようとすると装置の規模が非常に大きくなる。さらに、現在のISSで利用されているSabatier第2反応のように、実験室レベルでは実現可能であっても、実運用では反応に必要な温度・エネルギーが高すぎるために利用できないものもある。一方、生物処理を基礎にした方法は、例えば植物の栽培によって、二酸化炭素の分離、二酸化炭素の酸素への再生、食料供給、蒸散による水再生など、1つの要素で複数の機能を実現することが可能である。また、物理化学処理では取りこぼしてしまうような微量物質の一部を再生・循環できる可能性もある。一方で、物理化学処理に対して処理時間が長く、また生体の個体差に起因する物質処理量のゆらぎが大きい。また、再生処理量がごく少量であっても大きな生育空間が必要な反面、処理量がかなり大きくなっても物理化学処理に比べて大きくなりにくい場合が多い、という特徴もある。
過去の地上実験施設で適用された方法は物理化学処理に基づく再生方法が主であり、一部で生物処理と物理化学処理を併用する再生方法もあった。現在の国際宇宙ステーション(ISS)におけるECLSSでは、二酸化炭素から酸素への再生、水の再生などが、物理化学処理によって行われ、再生できないものは補給・廃棄されている。この補給・廃棄は地球近傍であるからできるが、火星居住などより遠方で長期間に耐えうるECLSSが必要になる場合は、再生できる物質種やその量をより多くし、よりCELSSに近づいたものにしていかなければならない。そのためには、規模にもよるが、物理化学処理を行っているものの一部を生物処理におきかえていくべきである。
本発表では、今までの物理化学処理・生物処理に関する状況や問題をまとめ、今までの物理化学処理を生物処理に置き換えることでどのような問題が起きるのかを、物質循環の観点から数値計算を用いて論議する。