日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 文化水文学

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、近藤 康久(総合地球環境学研究所)、安原 正也(立正大学地球環境科学部)、高橋 そよ(琉球大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HCG25-P03] 淡水魚漁場環境研究の必要性:カンボジア・タイ肝吸虫症流行調査探索を効果的に行うために

*宮本 和子1 (1.国立大学法人 山梨大学)

キーワード:タイ肝吸虫 、漁場環境、淡水魚生食

[背景]:タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini、以下Ov)感染症は本幼虫(metacercariae)が感染したコイ科淡水魚(第二中間宿主)を生食することによりヒトなどの哺乳類に感染する。第一中間宿主のマメタニシ類(Bithynia sp.)の中で成長したcercariaeが水中を泳いで淡水魚に寄生する(図1)。食由来寄生虫感染症であると共に水系感染症とも言える性質を持つ。予後不良の肝臓がんの原因となるため重要な公衆衛生上の課題である。タイやラオスでは国家保健対策の対象となっている。
[カンボジアのOv感染症流行状況]:カンボジアでOv感染症流行地が具体的に確認されたのは2006年で我々が実施した疫学調査による。2019年度までの調査でカンボジアの14州にて流行地(虫卵陽性率・EPR20%以上)または感染地域(虫卵陽性率・EPR20%未満)を発見し、カンボジアにおいてOv感染症が広く存在することを明らかにした。しかし、調査実施済み地域は各州のごく一部地域に限られており、国全体での流行実態解明はまだこれからである。
[なぜ漁場の環境調査が必要か]:我々が調査を実施したコンポンチャム州を例にすると流行地の特徴は以下の点が上げられる:1)メコン河本流を漁場とする住民のEPRが低い(例:中洲住民は淡水魚生食率は100%近いが、EPRは数%にとどまる)、2)雨季に池・湖の多くが増水し、浸水地域が拡大するが、それらの浸水地域で多くの流行が確認されている、3)雨季に水田を漁場にする地域でも流行が確認されている、4)淡水魚生食喫食率が高くても、隣接する複数の村でEPR20%以上と0~数%の村が混在する。すなわち、メコン河本流周辺を調査対象としても流行地の発見が困難であり、全国に無数にある池・沼・田んぼなどを漁場とする、全ての地域で調査を行う必要がある。また、一つの流行村が存在してもその周辺地域にも流行村が存在するとは限らず、抽出調査では流行実態を把握しにくいが、全戸調査を行うことは予算上も調査効率場も不可能に近い。これらは実態調査が進まない大きな理由となっていると考える。無数にある調査対象候補地に優先順位を付けるためには、感染経路となる淡水魚が棲息する漁場を効率的に選定できる必要がある。これら漁場の環境要因や第一・第二中間宿主が接触しやすい漁場の条件等を明確にすることで効率的に実態調査が進み、カンボジアのOv感染症対策の進展に貢献することが期待される。