日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 文化水文学

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、近藤 康久(総合地球環境学研究所)、安原 正也(立正大学地球環境科学部)、高橋 そよ(琉球大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HCG25-P05] 浄水設備のない地域向け家庭用紫外線水殺菌装置の開発

*藤戸 優衣1橋本 朝陽2堅田 凜平3、大上 迪士4、徳植 啓康5成瀬 延康6高橋 幸弘7 (1.United World College of the Atlantic、2.筑波大学大学院 生命地球科学研究群 、3.明治大学 農学部、4.京都大学 農学研究科、5.東京理科大学 理工学部、6.滋賀医科大学、7.北海道大学 大学院理学研究院)

キーワード:紫外線LED、家庭用水殺菌装置、持続可能性

発展途上国を中心に不衛生な飲料水による感染症が深刻である。世界では、経済的理由やインフラ設備の未整備によって飲料水を日常的に確保できない人が約20億人いるとされ、それらの人が川や池などの不衛生な水を飲料水として利用せざるを得ない状況にある。そのため、多くの人々が感染症を患い、特に乳幼児の場合は命を落とす原因になる。

こうした地域では、経済的な理由から殺菌された安全な飲料水を確保できる状況になっていない。現地に井戸を掘ることや浄水システムの構築などの援助も試みられているが、資金不足で持続的に管理ができないなどに問題があることも多い。そこで、現地の水を安価に殺菌するシステムが注目されている。水を殺菌するには、沸騰法、オゾン処理法、二酸化塩素処理法、錠剤や薬品などによる殺菌方法が知られているが、殺菌時間がかかりすぎたり、大型で複雑な装置が必要であったり、二次汚染物質の処理が高価であることなどで、経済的持続可能性に課題があることが多い。

我々は、取り扱いが簡単、長期間の使用が可能、さらに二次汚染がない、紫外線による水殺菌法に注目する。しかしながら、従来の紫外線水殺菌装置にはいくつかの問題点がある。まず、浄水設備が整った設備に取りつけることが前提の装置であり、川や池から汲んできた濁水にそのまま適用するものになってないこと、及び、装置の値段が高い(約10万円)ことである。そこで、本研究では、紫外線LEDを用いることで安価な装置を実現するとともに、様々な工夫を施すことでこれらの課題を克服し、アフリカ地域の低所得家庭の使用を前提(約100円/月程度のコスト)とした、安価で各家庭に配布可能な紫外線水殺菌装置の開発を目的とした。

貧困地域の生活用水である河川水は、ある程度の濁度を有するためそのような水に対しても紫外線殺菌が可能な装置が必要である。厚生労働省では殺菌をするにあたり、以下のような紫外線処理要件を定めている。1.紫外線域(253.7 nm付近)における透過率が75 %(0.125 abs./10 mm未満)であること、2. 紫外線照射槽を通過する水量の 95%以上に対して、紫外線(253.7nm 付近)の照射量を常時 10 mJ/cm2以上確保できる。紫外線透過率は、照射強度と、水の濁度に依存することから、これら両方の要件を常時満たす装置の設計を試みた。その特徴は、1. 河川水の粒子をフィルターで取り除き、濁度を減らすこと、2. フィルターに通した後の河川水(濁度を10と仮定)の水深が、常時5 mm以下を保つ浄水槽の設計である。また、紫外線LED素子を水から保護するため、従来利用されてきた高価な石英ガラス(5000円)に代わり、安価で高い紫外線透過率を有するポリエチレン製フィルム(10円)を利用することで、装置の低コスト化を図った。さらに、市販のUV-LED素子(波長100〜280 nm、3光源、約60円)を用いて、紫外線による菌の殺菌効果を検証する実験を行った。イースト菌を溶かした溶液2 ml (100 g/L)に対して、水面から5 mmの位置においてUV-LEDを15秒間照射した。その後、照射をした溶液としなかった溶液をそれぞれ寒天培地に塗布し、コロニーが形成されるかを観察した。24時間後には照射していない溶液と比べて、照射した溶液はコロニーが形成されていないことが明らかとなった。イースト菌は感染症の原因となる菌(チフス菌、コレラ菌等)に比べて、殺菌に必要なエネルギーが約2倍必要とされていることから、飲料水を提供するのに十分な殺菌効果を有することが示された。