日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 災害リスク軽減のための防災リテラシー

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、井ノ口 宗成(国立大学法人 富山大学)


09:15 〜 09:30

[HDS07-02] 避難態度評価のための架空シナリオ課題の開発

*杉浦 元亮1、田久保 将人1、石橋 遼1、三浦 直樹2、田邊 亜澄1 (1.東北大学、2.東北工業大学)

キーワード:災害避難態度、計測、性格特性

現在の防災リテラシー研究で、重要な技術的課題が、災害避難態度評価のための実験課題開発である。例えば、地震による津波からの避難を促す防災教育では、防災教育の効果として、教育後に発生した津波からの避難率を実測して評価できれば理想的だが、これは現実的ではない。その代替として、架空災害シナリオを用いた避難意思決定課題を用いることが想定される。
本研究では、主観的な津波発生リスクの程度が異なる架空の地震遭遇シナリオを数多く用意し、実験的に避難意思決定(避難する/しない)を行わせ、その避難率で避難態度評価を行う課題を開発した(図1)。しかし、このような架空シナリオにおける避難意思決定が、実際の津波避難意思決定と同じ心理プロセスによって行われるのか、疑念が残る。また、架空シナリオを構成する情報にも、震度や震源域といったメディアから取得する定量的情報(図1A)と、自身の体験で五感から得られる定性的情報(図1B)と、大きく2種類に分けられる。そこで、これら架空シナリオに基づいた避難意思決定傾向(個人差)が、実際の津波避難意思決定傾向と、同じ性格特性(心理プロセスの個人差)を反映するかを、定量・定性の2つのシナリオタイプを区別して検証した。具体的には、災害適応的な心理行動特性「災害を生きる力」8因子(Sugiura et al., 2015)のうち、リーダーシップと能動的健康の2因子が、東日本震災における主体的な津波避難行動と有意に関連した知見(Sugiura et al., 2019)を参考に、これらの性格特性相関パターンが、2タイプの架空シナリオにおける避難意思決定でも見られるかを検証した。
方法:1,200名の一般成人(男性600名・女性600名;49.5 ± 16.6(SD)歳)を対象としたオンライン実験を行った。参加者は40試行の津波避難意思決定課題(定量20シナリオ・定性20シナリオ;避難するかしないか2択)を行った。各被験者は「災害を生きる力」質問紙にも回答した。匿名で行われたオンライン実験では不真面目な回答者も少なくないと想定されるため、津波避難意思決定課題の回答一貫性で分析対象者の選別を行った。ここでは平均避難率(津波リスク)の高いシナリオで避難し、低いシナリオで避難しない傾向の指標として、避難すると回答したシナリオと避難しないと回答したシナリオの全体避難率の平均の差について二標本検定の要領でt値を計算し、p > .05となった回答者を分析から除いた。その結果分析対象者は205名となった。各対象者の避難率と生きる力8因子の得点との相関を、全シナリオ及び定量・定性シナリオに分けて分析した。サンプルサイズが大きくp値では小さな相関でも有意となってしまうため、弱い効果量と認められる|r| > .1を有意な相関とした。
結果(表1):全シナリオの避難率では生きる力8因子のうち、リーダーシップ(r = .140)・愛他性(r = .139)・能動的健康(r = .135)の3因子と有意な相関がみられた。定量シナリオにおける避難率では、愛他性(r = .134)のみが有意で、定性シナリオではリーダーシップ(r = .164)・愛他性(r = .117)・能動的健康(r = .147)の3因子が有意であった。
考察:架空シナリオではあっても、避難率(避難意思決定傾向)が実際の津波避難意思決定傾向と同じ性格特性(リーダーシップ・能動的健康)を反映することから、避難意思決定が共通した心理プロセスに依存することが示唆された。この関係は特に定性シナリオで顕著であった。一方で、実際の津波避難意思決定傾向とは関係の知られていない愛他性と避難率との相関もみられたことは、架空シナリオ実験固有の心理過程の影響(例えば実験者への忖度)を示唆するかもしれない。