日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 災害リスク軽減のための防災リテラシー

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、井ノ口 宗成(国立大学法人 富山大学)


11:00 〜 11:15

[HDS07-07] 古絵図・古地図を用いて復元した歴史地形の防災への活用

*蝦名 裕一1菅原 大助1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:古地図からの歴史地形復元、岩手県宮古市、2011年東日本大震災、1896年明治三陸地震津波

本報告は、古絵図や古地図を用いて歴史的な地形を復元するとともに、地形の変化や開発が今日の自然災害とどのように関連するかを解明し、防災へ活用する手法を考えるものである。
 今回、岩手県宮古市周辺地域において歴史地形の復元を実施した。宮古市周辺を描いた最も古い地形図は、1916年に描かれた旧版地形図である。これ以前の地形を描いた絵図としては、1857年に宮古市を流れる閉伊川の河口部を描いた絵図や、1874年に当時の宮古村の様子を描いた絵図などが存在する。まず、今日の宮古市の地形データをもとに、GMT(Generic Mapping Tools)を用いて歴史地形を描き、1915年の旧版地形図と比較し、当時の閉伊川の流路や海岸線を描き、近代の宮古地域の歴史的地形を復元した。同様に、1857年の絵図や、1874年の村絵図に基づき、前近代の地形を復元した。復元した地形と現在の地形を比較すると、宮古地域では閉伊川河口部の地形が大きく変化しており、特に前近代から近代にかけて、河口部の中州が埋め立てられ、そこに現代にかけて市役所の庁舎が建設されるなどの開発が進んでいたことがわかる。
 次に、災害情報の描写である。宮古市は2011年の東日本大震災で大きな津波被害をうけた事をはじめ、1896年明治三陸地震津波や1933年昭和三陸地震津波など、歴史上幾度も津波被害を受けた地域である。まず、2011年の東日本大震災の津波浸水範囲をGMTで描写した。また、1896年明治三陸地震津波の際に、被災地を巡回調査した山奈宗真が作成した『岩手県沿岸大海嘯部落見取絵図』に基づき、その浸水範囲を推定して描写した。
 山奈宗真の描いた明治三陸津波時における宮古地域の集落の状況をみると、当時の郡役所や村役場、学校といった主要施設は津波の被害を免れていることがわかる。これを、1915年の地形図と比較すると、これらの役所・役場や学校の位置がほぼ変わっていないことがわかる。すなわち、宮古地域における明治三陸地震津波の復興は、津波以前の状況をほぼ維持したままの状態で復興や、その後の市街地の拡大が展開していた事がわかる。
 また、過去の歴史地形を2011年の津波浸水範囲と重ねてみると、河口部ではかつて存在していた砂州の埋め立て地が大きく浸水しており、当時の宮古市役所庁舎などが浸水被害を受けている。また、1854年や1874年の絵図では、宮古地域の中心部を流れる山口川が描かれているが、今日ではこの山口川は河川改修で流路が変更されており、旧河道は暗渠となっている。2011年は、この山口川の旧河道に沿って、津波が侵入している様子がみられる。
 宮古地域における歴史地形と津波浸水情報との重ねあわせからは、かつて存在した河川や海岸線において津波浸水被害が顕著となっていることがわかる。また、前近代・近代・現代までの開発にともなう地形の変化によって、今日ではこれらの場所の津波浸水の危険性を判断するのが難しい状況となっているといえる。古絵図・古地図などに描かれる歴史地形を可視化するとともに、地域の開発や地形変化の歴史を把握することが、災害時の防災対策の一助になるといえよう。