日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)、座長:西井 稜子(新潟大学)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

14:00 〜 14:15

[HDS10-02] 線状凹地を有する地すべり地における地盤構造の推定

*大澤 光1土井 一生2荒井 紀之2東 良慶3渡壁 卓磨1山川 陽祐4 (1.森林研究・整備機構 森林総合研究所、2.京都大学防災研究所、3.大阪工業大学、4.筑波大学)

キーワード:重力斜面変形、深層崩壊、常時微動探査、笹山構造線

1.はじめに
 2011年紀伊半島豪雨災害時には四万十付加体堆積岩地帯にて深層崩壊が多発し、多くの人々が犠牲となったことから、防・減災上その発生機構の解明が急務である。付加体堆積岩の分布する山地の尾根や斜面上には、しばしば水平方向に窪地が連続する線状凹地や谷向き小崖・山向き小崖と呼ばれる地形が見られる。これらの地形は斜面の重力変形が進行していたことを示しており、前述の紀伊半島災害時の崩壊発生以前に崩壊斜面の源頭部に特徴的に存在していたことから、崩壊発生場の素因として関与していることが指摘されている(Chigira et al. 2013; Arai and Chigira 2019)。Yokoyama (2020)は静岡県安倍川上流の粘板岩地帯の山向き小崖と深層崩壊が多数分布する地域において詳細な地質調査をおこない、山向き小崖は断層破砕帯が高角度で存在する場合に顕著に形成され、また断層が難透水層として働くことで凹地内には地下水が涵養されうることを示すと報告している。Kojima et al. (2022)は線状凹地の縦・横断測線にて電気抵抗探査をおこない、凹地内は比較的高含水率となることを示した。しかし、凹地内の地下構造と崩壊の関係を実証的に解明した研究は少なく体系的な理解に至っていない。よって本研究では、線状凹地が複数発達する地すべり地において地下構造を明らかにすることを目的として、表面波探査、常時微動探査および周辺の地質調査を行なった。

2.対象地の概要
 静岡県北部の小河内川流域最上流部の地すべりを調査対象とした。勘行峰に沿って四万十帯の付加体堆積岩が分布し、山頂付近には典型的な線状凹地が多数認められる。本対象地は標高1550–1770 mにかけて、長さ・幅それぞれ約600mの楔形状で、地すべり下部は崩壊し、急傾斜している。

3.方法
 対象地付近の地質構造を明らかにするため、地表地質踏査を行なった。重要な岩石や粘土についてはサンプルを採取し、薄片作成やX線回折分析(XRD)を行った。地すべり地内の線状凹地を含む平坦地形の5地点において、常時微動探査をおこなった。微動探査は三角またはL型アレイを組み、それぞれの地点で測定可能な最大規模の測線長をとった。微動計は地点により4〜9台のMcSEIS-AT(応用地質(株))を使用した。地すべり地内にて顕著な線状凹地が発達した2地点において、直線状の凹地に直交する方向に測線長50mおよび100mの表面波探査をおこなった。

4.結果と考察
 地質・地形調査の結果、地すべり地内は主に緑色岩(玄武岩質ハイアロクラスタイト)で覆われ、部分的に赤色泥岩が取り込まれていた。また、地すべり末端の標高1550 m付近の露頭断面には、北北東から南南西方向に鉛直に近いガウジを伴う地質境界断層が認められ、上位が緑色岩、下位が頁岩であった。また、断層から数十メートルの範囲は強破砕され、断層から離れるほど亀裂の発達した岩相へと遷移し、等高線に沿って断層が連続したことに加え、5万分の1地質図に記載された断層位置から本断層を笹山構造線と判断した。一方、断層沿いには多数の湧水点が確認されるほか、断層から10m程度上部に山向き小崖が見られた。灰白色の断層ガウジをXRDにかけた結果、石英・方解石・緑泥石・滑石が含まれていた。杉山・松田(2014)によると、笹山構造線は逆断層型で、断層の上位が新第三紀の瀬戸川層群、下位が白亜紀後期の犬井層群であった。
 5地点の微動探査の結果、S波速度の鉛直プロファイルから360–430 m/sの A層、560–640 m/sの B層、830–1040 m/sのC層、1500–1860 m/sのD層の4層に区分された。A層に相当する露頭の観察の結果、多数の亀裂が発達しており、低速度の結果と整合的であった。B層は変形や風化を受けているが、A層ほど顕著でなく、C層およびD層は基盤岩に相当することが推定された。
 凹地を縦断する2地点の表面波探査の結果、S波速度は地表から深さ3m程度まで160m/s以下、深さ3–9mで140–250m/sであり、表層土は極めて低速度であった。また、部分的に比較的、低速度や高速度な領域が存在し、不均一な構造であることがわかった。浅層のS波速度の結果は、大澤ら(2021)による本対象地に隣接した五色ガレ崩壊地上の線状凹地のS波速度の結果と整合した。

謝辞:現地調査にあたり遠藤好和氏・上治雄介氏(筑波大学井川演習林)にご協力をいただいた。本研究は科研費21KK0015、京都大学防災研究所一般共同研究および筑波大学山岳科学センター共同研究の助成を受けた。

引用文献: Chigira et al. (2013): Geomorphology, 201(1), 479-493. Arai and Chigira (2019): Engineering Geology, 260(3), 105236, Yokoyama (2019): Geomorphology, 352(1), 106977. Kojima et al. (2022):応用地質, 63(1), 2–12. 杉山・松田(2014)南部地域の地質,5万分の1地質図幅,134 p. 大澤ら(2021)JpGU発表要旨HDS10-04