日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、古市 剛久(森林総合研究所)、佐々木 達(法政大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HGG01-P03] ベトナム北部山地流域における土地利用及び地形改変の地形プロセスへの影響ベトナム北部山地流域における土地利用及び地形改変の地形プロセスへの影響

*古市 剛久1,2渡壁 卓磨1大澤 光1村上 亘1、岡本 隆1、志水 克人1、ヴー・ タン・フォン3、グエン・ トゥイ・ミイ・リン4、タン・ トゥン・ドアン4、レー・ ティ・トゥー・ハン4 (1.森林総合研究所、2.サンシャインコースト大学、3.ベトナム森林認証局、4.ベトナム森林科学アカデミー)

キーワード:森林劣化、地形改変、斜面崩壊、地表面侵食、浮遊土砂

ベトナムでは2020年に7個の台風に伴う中部地域での土砂災害が世界的な注目を集めたが(Tien et al. 2021),1991-2015年の統計によれば土砂災害による人口千人当たりの死者数は同国で最も山がちといえる北部地域が最も多い(JICA 2018).衛星画像データを見る限り,ベトナム北部地域においては各地で表層崩壊や深層崩壊が発生しており(古市ほか 2021, 2022),また,土壌侵食などに伴う浮遊土砂流出の増大が下流部に影響をもたらしている(Le et al. 2007, Vinh et al. 2014).しかし,これらの地形プロセスについて山地域での現地調査データに基づいた実態解明は限られている(Tien et al. 2016, Abe et al. 2021)

ベトナム北部イェンバイ省のムーカンチャイ地区は,標高900-2000mの高地に立地し,平均年雨量が1738 mm(2011-2020年),流紋岩及び流紋岩質凝灰岩が卓越し頁岩がしばしば挟まれる地表地質を持つ.大地形には線構造などパターンが認められ,かつての地殻変動が関わる地質構造にも影響された地形発達が示唆される.斜面には2017年の大雨時に群発したと見られる表層崩壊や,発生時期は特定されていないが拡大を続けている地すべりが見られる.2022年の雨季に開始した河川観測ではカオリン濁度20000度を超える流出イベントが2回記録されており,豪雨時には流域斜面で高強度の地表面侵食が起こることを示している.

流域の山地斜面には古くからモン族が暮らし,斜面下部から中部に段々畑を作り,水稲(小川沿い),キャッサバ,トウモロコシなどを栽培してきた.一方,流域の谷部にはターイ族が古くから暮らし,谷底の平坦面で水稲などを栽培してきた.主として斜面上部に分布する森林には薪炭材確保や農地転換のために住民が様々な強度で伐採し劣化した森林が見られるものの,採水分析や現地浸透試験の暫定データを見る限り,そうした劣化森林が立地する小流域での表面侵食の強化は限定的なようである.しかし,2017年の事例からは表層崩壊の発生には森林の劣化が有為な影響を及ぼしてきた可能性は残る.ベトナムにおける近年の経済発展はこの急峻な山間地にも及んでおり,各地で開発が進んでいる.急峻な地形のため谷部でも多くの場合傾斜している開発用地は整地され,更に背後斜面を切って利用土地面積を拡大する工事が行われ,切土などの工事から出た土砂は斜面下部や近傍の谷へ移動させる(廃棄する)という状況が各地で見られる.そうした近年の地形改変は,新たな土砂流出源や新たな表層崩壊危険地を生んでいる可能性が高い.森林資源利用や農地転換による土地利用変化(すなわち,森林の劣化)の影響と共に,ムーカンチャイ地区での地形プロセスに対しては,近年の地形改変が強い影響を与えていると見られる.

【文献】
Tien et al. (2021) Landslides, DOI 10.1007/s10346-021-01663-z
JICA (2018) ベトナム国防災セクター戦略策定のための情報収集・確認調査.
古市ほか (2021) JpGU2021要旨,HDS10-03.
古市ほか (2022) JpGU2022要旨,HDS11-P05.
Le et al. (2007) Journal of Hydrology, 334(1-2), 199-214.
Vinh et al. (2014). Hydrology and Earth System Sciences, 18(10), 3987-4005.
Tien et al. (2016). 地形 37(1), 41-56.
Abe et al. (2021) 5th World Landslide Forum, Kyoto.