日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR03] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)


09:30 〜 09:45

[HQR03-03] 岩手県侍浜の海成段丘における表面照射年代測定に基づく離水年代

*レゲット 佳1,2,3横山 祐典1,2,6宮入 陽介1白濱 吉起3、阿部 恒平4照沢 秀司5 (1.東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター、2.東京大学 理学系研究科 地球惑星科学、3.国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ、4.応用地質株式会社 防災・減災事業部 解析技術部、5.応用地質株式会社 流域・砂防事業部、6.東京大学大学院総合文化研究科国際環境学教育機構)

キーワード:表面照射年代測定、Be-10、海成段丘

東北地方太平洋岸における地殻変動は,プレートの沈み込みによるひずみの蓄積と超巨大地震を伴うようなひずみ開放イベントの繰り返しにより引き起こされていると考えられている(池田ほか,2012).2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震はそのひずみ開放イベントの一つであったとされる.三陸沿岸には約13万年前の海洋酸素同位体ステージ(Marine Isotope Stage (MIS))5eや約24.4万年前のMIS 7に形成されたと推定される海成段丘が広く分布することが知られている(たとえば,宮崎&石村,2018).しかし,これらは沈降を示す測地学的な過去100年間の観測結果とは異なり,長期的な隆起を示唆する地形である.こうした矛盾した地殻変動の理解を深めるためには,東北地方における地殻変動履歴の正確な復元が必要である.
東北地方沿岸部における地殻変動履歴復元には,これまで海成段丘上の堆積物に含まれる火山灰によるテフロクロノロジーが用いられてきたが,海成段丘面上の堆積物に乏しい場合,適用が困難である.三陸沿岸においては海岸線に沿って南下するにつれ,堆積層の層厚の減少が認められ,三陸における高精度な地殻変動履歴復元の障害の一つとなっている.表面照射年代測定法は,地表の岩石が宇宙線に被曝する環境下において岩石内で生成される放射性核種を用いる年代測定手法である.本手法は,地球表層プロセス研究に広く用いられており(例えば横山ほか,2005),海成段丘面の照射年代から,隆起速度の評価を行う研究などが含まれる(例えば Saillard et al.,2009; Yokoyama et al., 2023など).しかしながら,表面照射年代測定法がこれまで適用されているのは,測定に十分な放射性核種蓄積量が獲得できるような古い地形面が保存されている地域や宇宙線照射強度の大きい高緯度域や高標高の地域が多い.中緯度域や海面付近など標高が低いところでは大気による減衰の程度が大きくなるため,宇宙線照射強度が弱く,十分な核種蓄積量が得られないために分析が困難なことが多い.東北地方沿岸部は中緯度域の海面付近に位置することから,従来の表面照射年代測定手法では年代測定が困難であることが予想される.そのため本研究では,低バックグラウンドのキャリアーを用いたブランク試料と長時間のAMS測定(Yokoyama et al., 2019)によって,核種蓄積量の少ない試料に対するBe同位体分析を行い,表面照射年代測定法を試みた.本研究対象地域である侍浜は岩手県の三陸沿岸南部に位置しており,前述した堆積層の薄い地域で石英に富む花崗岩質な基盤岩が,現海面から高さ約15mにわたって階段状に露出している.加えて,数キロメートル北には同等の標高で火山灰の含まれる堆積物のある海成段丘面が分布することから,侍浜での表面照射年代測定とテフロクロノロジーとの対比によって精度検証も可能である.
試料は侍浜の階段状に発達する海成段丘の標高1mから12mまで異なる高さから,5地点で主にボーリングによる試料採取を行った.低バックグラウンドキャリアーを用いたAMS測定の結果,試料の10Be/9Be (×10-12)が低位面と高位面で有意に異なり,高位面でより高い蓄積量を示すことが確認された.このことは表面照射年代測定によるこの地域での離水年代の検討を行うことができる可能性を示唆する.本研究は原子力規制庁令和二年度及び三年度原子力施設等防災対策等委託費(宇宙線生成核種を用いた隆起海岸地形の離水年代評価に関する検討)事業の一部として行われた.

[文献]
・池田安隆, 岡田真介, & 田力正好. (2012). 東北日本島弧− 海溝系における長期的歪み蓄積過程と超巨大歪み解放イベント. 地質学雑誌, 118(5), 294-312.
・宮崎真由美, & 石村大輔. (2018). テフロクロノロジーに基づく三陸海岸北部における最終間氷期海成段丘の形成年代と最終間氷期以降の地殻変動の再検討. 地学雑誌, 127(6), 735-757.
・横山祐典, 阿瀬貴博, 村澤晃, & 松崎浩之. (2005). 宇宙線照射生成核種を用いた地球表層プロセスの研究. 地質学雑誌, 111(11), 693-700.
・Saillard, M., et al. "Non-steady long-term uplift rates and Pleistocene marine terrace development along the Andean margin of Chile (31 S) inferred from 10Be dating." Earth and Planetary Science Letters 277.1-2 (2009): 50-63.
・Yokoyama, Yusuke, et al. "An initial attempt to date Pleistocene marine terraces in the south coast of Japan using in situ cosmogenic 10Be and 26Al." Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms 535 (2023): 255-260.
・Yokoyama, Yusuke, et al. "In-situ and meteoric 10Be and 26Al measurements: Improved preparation and application at the University of Tokyo." Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms 455 (2019): 260-264.