日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT15] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HTT15-P02] 大気降下物の硫酸イオンの前処理による安定同位体組成への影響

香川 雅子1、*勝田 長貴1、内藤 さゆり1益木 悠馬2千葉 仁3服部 祥平4、由水 千景5陀安 一郎5 (1.岐阜大学教育学部、2.岐阜大学自然科学技術研究科、3.岡山大学理学部地球科学科、4.南京大学、5.総合地球環境学研究所)

キーワード:雨水、エアロゾル、硫酸イオン、硫黄・酸素安定同位体組成

本研究では、岐阜市近郊の雨水及びエアロゾル中の硫酸イオンの起源を明らかにすることを目的とし、2018年11月から現在まで継続して雨水とエアロゾルの採取、硫黄同位体比(δ34S)と酸素同位体比(δ18O)の分析を行っている。これまでの結果から、サンプル溶液濃縮時にHClを添加して蒸発乾固させるとδ18Oの値に影響があることが分かった。今回の発表では、サンプル溶液濃縮時の処理方法によるδ34S、δ18Oへの影響を調査するために、標準試薬を使用した実験結果と仮説の検証について報告する。
これまでの研究で、雨水・エアロゾルのδ18O値が異常に高い値(~60‰)が検出されたため、雨水濃縮時の処理方法による影響について検討を行った。その結果、蒸発による濃縮及び蒸発乾固による濃縮後に作製したBaSO4中のδ18O値は差がみられなかったが、HCl添加・蒸発乾固したBaSO4中のδ18O値は異常に高い値を示し、蒸発・乾固時にHClを加えて処理すると、BaSO4中のδ18O値に影響が出ることが分かった。尚、δ34S値はHClによる影響は見られなかった。
今回は、標準試薬(Fisher Chemical社 無水硫酸ナトリウム)を使用し、サンプル1L(100 µmol/L; 通常の雨水の10倍程度の濃度)に異なる量のHCl(35%HCl ; 10, 1, 0.1,0.05mL)を添加後、200℃で蒸発乾固したサンプルと、超純水で溶解させpH3に調整したリファレンス試料とのδ18O値、δ34S値を比較した。
その結果、HClの添加量が多いサンプルほど、δ18O値が高くなることが分かったが、明瞭な量的関係は見られなかった。δ18O値が異常に高くなる原因として考えたのがMüller et al.(2013)が報告しているpH1.5の酸性環境下ではSO2とH2Oとの間で同位体交換が迅速に起こり、δ18O値が~37‰となるという結果である。仮説として、蒸発乾固時に酸性環境下でSO42-がHClによって還元され、SO2もしくはSO32-が生成されたと考え、その可能性について検証するため以下のような分析をした。HCl添加後、蒸発乾固させたサンプルが付着したビーカーに酸化防止剤を加えた超純水(0.37% ホルマリン水溶液)を迅速に加えて抽出し、イオンクロマトグラフィー分析によりSO32-が生成しているか確かめた。その結果、SO32-は生成されておらず、BaSO4の回収率も100%近かったことからSO42-はHClによってSO32-に還元されたり、SO2として揮発していないことが分かった。尚、標準試料を使用した同様の実験において、δ34S値はリファレンス試料とほぼ同じ値を示し、HCl添加・蒸発乾固による影響がないことが分かった。