日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、磯 真一郎(公益財団法人 深田地質研究所)、木佐貫 寛(応用地質株式会社)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HTT18-P01] 単点微動測定H/V スペクトルと表面波探査の組み合わせによる長野県北部池尻川低地の浅部S波速度構造モデリング

*稲崎 富士、近藤 洋一2、関 めぐみ2、井内 美郎3、林 宏一1 (1.Geometrics、2.野尻湖ナウマンゾウ博物館、3.(元)早稲田大学)

キーワード:単点微動測定、H/Vスペクトル、表面波探査、表層地盤、池尻川低地

微動の水平動成分と鉛直動成分の周波数スペクトル比(H/Vスペクトル)から表層地盤の地震時増幅特性を評価することが可能であり,基盤深度と概略的なS波速度構造を推定できる簡便な現場測定手法として活用されてきた.しかしその推定には不確かさが残り,通常は微動アレイ測定と組み合わせて速度構造の信頼性を担保する方法が採用されてきている.本発表では,微動アレイ測定のかわりに表面波探査を組み合わせて浅部のS波速度構造を推定する技法を紹介するとともに長野県北部,野尻湖の西側に位置する池尻川低地での適用結果の概要を示す.
表面波探査では直線状に多点の地震計を配列して探査測線を構築し,その測線上の多点で起振して取得した振動波形データから分散曲線を求める.微動アレイ測定と比べ2次元ないし3次元のS波速度構造を推定することが可能であるという特徴がある.起振波形には表面波だけでなく,P波・SV波の直達波・屈折波・反射波・変換波などの波群が含まれている.多点起振データを対比・追跡することでこれらのイベントを識別することができ,その出現走時,形状から浅部のS波速度構造モデルに制約条件を与え,インバージョン・順解析過程を最適化することが可能となる.このように後続波イベントを識別して速度層構造モデルを構築し,測定データであるH/Vスペクトル比と分散曲線ならびにショットデータ・後続イベントを説明できるかをインバージョン・順解析に含める,という点が本組み合わせ探査手法の特徴である.
現地での単点微動測定には応用地質社製の3成分独立型地震波形測定システム:Atomを使用した.同システムは3成分速度型地震計(固有周波数2Hz)とGPS内蔵3チャンネルデータロガー(McSEIS-AT)より構成される.サンプリング間隔は4msecとし,各点で15-30分間程度の微動を測定した.使用した速度型地震計は0.1-50Hzの周波数帯域において成分間の出力特性がフラットであることを検証済みである.現地測定は2022年9月に実施し,池尻川低地内61地点において微動データを取得した.また表面波探査には応用地質社製のMcSEIS-SXW(24ch)および固有周波数2Hzの地震計を使用し,1m間隔で地震計を配列し,測線上で3点以上の起振点を設定し,かけ矢で路面を打撃して発生した振動を記録した.サンプリング間隔は1msec,記録長は2kwordsとした.現地測定は2022年12月に実施し,池尻川低地内の15測線において鉛直起振波形データを取得した.
測定データのうち単点微動測定データはGeometrics社が提供する専用処理解析ソフトウエアシステムSeisImagerを用いてH/Vスペクトルを求めた.解析結果は同社が運営する公開型データベース(https://SeisImager.com)にアップロードした.このデータベースでは測定結果をアップロードしてマップ上に表示するだけでなく,誰もが個別サイトのH/Vスペクトルを閲覧することもデータをダウンロードすることも可能である.表面波探査データも上記SeisImager中のモジュールを用いて処理し分散曲線を求め,さらにS波速度構造モデルから水平多層構造を仮定して鉛直起振に対する理論波形を合成し,識別した後続波イベントとの再現性をチェックした.
池尻川低地内でのH/Vスペクトル比のピーク周波数の空間分布を附図(a)に示す.同図からはピーク周波数が低地中央部で低く,縁辺部で相対的に大きいことが読み取れる.特に北西側縁辺部には10Hz以上にピーク周波数を有する地点があり,この付近で基盤が急激に浅くなっていることが推定される.附図(b)は低地中心部(652標高点近傍)のIKJ_09地点のスペクトル比曲線を,また附図(c)は同地点直近の表面波探査記録波形を説明可能なS波速度構造モデルを示したものである.この地点付近では2012年に3成分コーン貫入試験(CPT)が実施されており,その先端コーン貫入抵抗曲線も附図(c)上に投影してある(2012_CPT). 附図(b)には(c)のS波速度構造モデルから導出される理論H/Vスペクトル比曲線を上書きしてあるが,このモデルによって0.970Hzに出現する周波数ピークを説明できることが示されている.なお想定したモデルでは表層のS波速度値は30m/s程度と極めて小さいが,コーン貫入試験と同時に実施されたサイスミックCPT試験で得られた表層のS波速度とも調和的であった.また表面波探査記録波形に認められた往復走時360msのSV反射波は深さ15m付近の速度境界に比定することができた.
単点微動測定と表面波探査を組み合わせて実施し,後者のショット記録波形中の後続イベントを再現可能な速度構造モデルを想定し,実測H/Vスペクトル比曲線と対比・チューニングすることによって浅部のS波速度構造をより現実的に推定する手法を考案した.長野県池尻川低地で取得したデータに適用したところ,以前に取得されていたCPT/サイスミックCPT試験結果とも調和的であった.
現地での探査には応用地質(株),モニー物探(株)に便宜をはかっていただくとともに,野尻湖地質グループほかの各位にお手伝いいただいた.記して謝意を表します.