日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI30] 計算科学が拓く宇宙の構造形成・進化から惑星表層環境変動まで

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、小久保 英一郎(自然科学研究機構国立天文台科学研究部)、小河 正基、座長:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))

14:15 〜 14:30

[MGI30-03] 不連続ガラーキン法を用いた非静力学大気力学コアの開発: 地形の考慮

*河合 佑太1、富田 浩文1 (1.理化学研究所 計算科学研究センター)

キーワード:高解像度大気計算、力学コア、高精度数値計算法、地形

はじめに
将来的な高解像度大気計算を念頭において, 高精度化が単純であり, コンパクト性が高い特徴を持った不連続ガラーキン法(DGM)に注目している. 大気計算における DGM の適用可能性を検討するために, DGM に基づく領域 LES モデルを構築し, 大気境界層乱流で求められる展開多項式の次数(p)の検討(JpGU Meeting, 2022 にて報告)や, 湿潤過程の導入を進めてきた. その際は地形を考慮しなかったが, 現実地形における急峻な地形の取り扱いもまた高解像度実験において重要な課題の一つであると考えられる. 地形を扱うための伝統的な方法は, 地形に沿う座標系を用いることである([1] 等). しかし, 低次精度の離散化法では, 地形の存在する領域で圧力勾配項の数値誤差の影響が大きく, 偽の流れが生じる問題がよく知られている. 一方で, 高次精度の場合には有効解像度より大きな空間スケールに対して数値誤差は非常に小さくなるため, 伝統的な地形に沿う座標系の数値誤差の影響は本質的でない可能性もある. 高次の DGM における地形の扱いを検討するため, 開発を進めてきた力学コアを拡張して地形を扱えるようにした. 本発表ではその初期的結果を示す.

力学コアの定式化
支配方程式系は三次元完全圧縮非静力学方程式系であり, 鉛直座標は一般鉛直座標系を用いて定式化した. 計算コードは任意の鉛直座標変換を扱えるようにしてあるが, ここでは地形に沿う座標系に焦点を当てる. 空間離散化は, nodal DGM ([2] 等)を適用する. 計算領域は六面体要素を用いて分割し, 内部に (p+1)3個の節点を置く. フラックス項と関連した数値積分は展開多項式と同じsolution point を用いる. 要素境界のフラックスは, Rusanov フラックスを使って評価する. 鉛直座標変換と関連したメトリック・変換ヤコビアンは, DGMの枠組みで p+1 精度で計算する.

テスト計算
[実験設定] 鉛直座標変換を導入した力学コアの妥当性を検証するために, [3] に基づく準二次元の山岳波の数値実験を実施した. 計算領域は水平 288 km, 鉛直 30 kmである. 地形は, 高さ 1 m・典型的な水平スケール 1 kmのベル型を考える. 初期条件として, 10 m/sの水平一様流を伴う成層大気を与える(スコラー数 0.001). 水平方向は周期境界条件を適用し, モデル上下端で滑り条件を課す. モデル上層と水平境界近くには, スポンジ層を置いた.数値解の自己収束性を調べるための参照解には, 高解像実験(水平鉛直方向の実効格子幅はそれぞれ Δxe=63m, Δze=23 m)から得た計算結果を用いた. 従来的な低次精度の格子点法に基づく大気力学コアと比較するために, 同様の計算をSCALE-RM [4] を用いて行った. SCALE-RM の力学コアは全体で 2 次精度の有限体積法(FVM)に基づくが, 移流項についてはより高次のスキームを使用できる. 移流スキームとして, 3 次, 7 次精度風上スキームを使用した.
[計算結果] 図 (a), (b) は準定常状態における鉛直風の分布を示している. 数値実験で得られた山岳波の空間構造(色線)は, ブシネスク成層流体の方程式系から得られる線形解(黒点線)[5]と定性的によく似ていることが見てとれる. シェードは高解像度実験から得られた参照解との差を示している. 同程度の解像度で比較したとき, DGM と比べると SCALE-RM の結果は鉛直座標変換に伴う数値誤差や波の位相誤差が大きいことが分かる. 図 (c) に, 高解像度計算を参照解にして調べた L2 誤差ノルムの解像度依存性を示す. SCALE-RM の数値収束率は 2 次精度程度であり, 本テストケースでは移流項の高精度化は数値誤差の改善に寄与しない. この結果は, 圧力勾配項やメトリックの離散精度が全体の誤差に効いていることを示唆している. 一方で, DGM の誤差ノルムは p=3, p=7 の両方で同程度の解像度と比べて, SCALE-RM よりも小さい. その数値収束率は 2 から 4 次精度程度である.
[課題] p=7の DGM の結果について数値収束率が p+1 次よりずっと小さい. その原因として, 側面のスポンジ層の位置や水平スケール, 数値解の自己収束性を調べる際のリグリッドの方法が関係している可能性が考えられる. この点を今後確認したい.

参考文献
[1] Gal-Chen and Somerville (1975), [2] Hesthaven & Warburton (2008), [3] Giraldo and Restelli (2008), [4] Nishizawa et al. (2015), Sato et al. (2015), [5] Smith (1980), Saito et al. (1998)