日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、相木 秀則(名古屋大学)、座長:中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

14:30 〜 14:45

[MIS12-04] 応力履歴効果を含む温度依存高粘性流体の熱対流の構造の変化

*奥田 尚1竹広 真一1 (1.京都大学数理解析研究所)


キーワード:マントル対流、対流構造、応力履歴効果、ヌセルト数、スケーリング関係、プレート運動

惑星内部のマントル対流運動と表層のプレート運動の形態の多様性を調べるために, さまざまなレベルでマントルの物性を適用した高粘性流体の熱対流モデルを用いた研究がされている. その先駆的な取り組みとして, マントル物質の最も基本的な性質である粘性の温度依存性を考慮した熱対流モデルの研究があげられる. Solomatov (1995) は粘性の温度依存性の強さに対するNusselt数のスケーリング関係を用いて対流構造を分類した. 粘性の温度依存性が小さい時は粘性が一定の場合の対流構造に似た上下対称な対流構造が出現する (SVC regime). 温度依存性が強くなるにしたがって, 低温で高粘性の上側境界層が厚くなり流れが弱くなる (TR regime). 粘性の温度依存性が更に強くなると, 上側境界層はほとんど流れのない領域となり, 対流運動は上側境界層の下部領域に限定され, そこではSVC regimeと相似の構造が出現する (ST regime).
近年では, より現実的なマントル対流のモデルとして, 粘性の温度依存性に加えて, 沈み込み帯でのプレートの破壊と変形を表現するために変数 (ダメージ) を導入して応力による粘性の低下を考慮する熱対流が研究されている (Ogawa, 2003; Foley and Bercovici, 2014; Fuchs, 2019; 他). 応力及び粘性散逸の大きいところでの粘性の低下は, 剛体的に運動するプレート内部と局所的に沈み込むプレート境界部の形成に必要とされている (Bercovici, 2003; Gerya, 2013). なかでもOgawa (2003) はダメージ変数を導入して応力の履歴効果が現れる粘性モデルを提案し, 上側境界上での速度水平成分の分布から計算されるプレート運動らしさに基づいた対流構造の分類を行った. その結果, とあるパラメーター領域において, 剛体的なプレートに似た境界層内の速度水平成分がほぼ一様となる解が存在することを数値計算により見出し, 境界層内の応力と履歴効果の出現条件により理論的にこれを説明した. しかしながら, Nusselt数のスケーリング関係に基づく対流構造の分類は行われておらず, 応力による粘性低下の導入より, SVC, TR, STレジームといった対流構造の分類がどのように変化するかは明らかではない.
そこで本研究では, Ogawa (2003) のモデルに基づく粘性の温度依存性と応力依存性を持つ流体の熱対流の対流構造のNusselt数のスケーリング関係に基づいた分類を試みた. Rayleigh数は106とし, 縦横比 4 の 2 次元チャネル領域にてPrandtl数無限大近似の熱対流モデルの時間積分計算を行い, さまざまな粘性の温度依存性の強さとダメージによる粘性低下の強さに対して定常解を求めた. それらの解に対して, ダメージの効果がなく温度依存性のみ考慮したときのNusselt数のスケーリング関係を利用して対流構造を特定し, 分類した. その結果, 温度依存性のみの場合にはTR regimeに分類されていたパラメーターでの対流解が, ダメージによる粘性低下を導入するとSVC regimeの対流構造となることが見出された. 高粘性の上側境界付近で粘性が下がることで実効的な粘性の温度依存性が弱まることでSVC regimeの対流が出現しやすくなったと考えられる. 実際に高い応力のために上側境界層が沈み込む領域で粘性が下がっている様子が数値解において見られている.