日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ43] ジオパークとサステナビリティ(ポスター)

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(フォッサマグナミュージアム)、横山 光(北翔大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[MZZ43-P13] XPSによる地層剥ぎ取り標本の裏打ちについて

*酒井 伸彦1笠間 友博2 (1.箱根町立森のふれあい館、2.箱根ジオパーク推進協議会)

キーワード:剥ぎ取り標本、押出法ポリスチレンフォーム断熱材、コーキング剤(シリコンシーラント)

XPS(Extruded Polystyrene Foam:押出法ポリスチレンフォーム断熱材)は、主に断熱用建材として使われる堅くて難燃性を有する板状の発泡ポリスチレンである。ホームセンターなどで、スタイロフォーム、ミラフォーム、カネライトフォームといった商品名で販売されている。合板と比較すると重量は1/15程度、価格は1/2~1/4程度である。また、この製品は、ホルムアルデヒドの放散量の少ないランク(F☆☆☆☆)で、使用場所の制約なしに使用できる建材です。
地層剥ぎ取り技法(接状剥離法)は、露頭に接着剤を直接塗布し、ガラス繊維や晒布などで裏打ちをし、固化後に露頭表面を薄く剥離させることによって地層資料を採取する技法である(例えば、神奈川県立生命の星・地球博物館,2008)。使用する接着剤には、三恒商事のトマックNS-10、東邦化学工業のハイセルHO-1AXなどの市販品もあり、博物館学芸員、教員などが自ら標本採取をすることが可能である。一方で、採取した剥ぎ取り標本の展示方法は様々である。箱根ジオパークの拠点施設の1つである神奈川県立生命の星・地球博物館では、合板(厚さ5.5~9㎜程度)に一辺60㎜~90㎜程度の角材で裏枠を付け、剥ぎ取り標本の表側から木枠に木ネジを打ち込んで固定することが多い(2017年特別展:地球を「はぎ取る」など)。この方法ではレキ層などの重量のある標本も展示可能である。しかし、テフラなどは薄く軽量な剥ぎ取り標本に仕上がることも多く、裏打ち材も軽量であれば、設置方法等の制約から解放されることが期待される。本発表は剥ぎ取り標本軽量化の提案であり、箱根ジオパークの拠点施設の1つである箱根町立箱根ジオミュージアムでの実践報告である。
箱根町立箱根ジオミュージアムは2014年に大涌谷に開館した、著者らの前所属である。開館当初は映像展示が中心だったが、火山ガス濃度上昇により機材が破損し、その後展示更新を行った。その一環であるテフラ剥ぎ取り標本展示は、2020年から2021年にかけてトマックNS-10と寒冷紗を用いて著者らが採取したものを、XPSを裏打ち材として作製したものである。設置した壁面は石膏ボードである。XPSは25㎜厚を使用した。その重量は3×6(910㎜×1820㎜)で約1.5㎏である。剥ぎ取り標本のXPSへの固定は、コーキング剤(シリコンシーラント)を用いた。シリコンシーラントは安価で、厚塗りができるので標本裏側の凹凸へも追従性がある。また色も選べる。シリコンシーラントはコーキングガンで帯状またはスポット状に塗布し、使用量は3×6(910㎜×1820㎜)クラスの標本で3本程度であった。さらに20㎜×40㎜の板材を、XPS裏打ち材の上下から少しはみ出る程度の長さで2枚左右にシリコンシーラントまたはコーキングガン用接着剤で接着し、裏支えとして壁に立てかける際の脚と吊り具を掛けるヒートンの足掛かりとした。
更にXPSを使用することによって可能になり、著者らが新たに取り組んでいるのが、不定形の剥ぎ取り標本の展示である。剥ぎ取り標本は野外において長方形に近似させて採取することが多いが、実際の露頭はそもそも不定形である。合板で裏打ちをする場合は、長方形に切断した合板を用意し、それに合わせて剥ぎ取り標本を長方形に切断して固定するのが一般的である。ところが、XPSはカッターナイフで簡単に切断できるし、熱線カッターを用いて採取した剥ぎ取り標本の形に合わせて裏打ち材側を容易に切断することが可能である。見た目の印象は、不定形の方が臨場感や迫力がある。箱根ジオミュージアムで展示してある剥ぎ取り標本は全て不定形としてある。なお、この方法で木曽町御嶽山ビジターセンター(里テラス)の白尾火山灰の剥ぎ取り標本も作製し展示した。