日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

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[M-ZZ43] ジオパークとサステナビリティ(ポスター)

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(フォッサマグナミュージアム)、横山 光(北翔大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[MZZ43-P20] ジオパーク活動に関わる4つのキーワードとジオ多様性の関係

*柿崎 喜宏1 (1.室戸ジオパーク推進協議会)

キーワード:ジオ多様性、環境保全、持続可能な開発、生物多様性、文化多様性

【ジオ多様性とは】
ジオ多様性(Geodiversity)とは「地質学的特徴(岩石、鉱物、化石)、地形学的特徴(地形、地形、物理的プロセス)、土壌、水文学的特徴の多様性」である(Gray, 2013)。ジオ多様性という言葉は1980年代にオーストラリア・タスマニア州で地形や景観の保全活動の中で使用されはじめ,日本国内では2005年頃から注目されはじめた(例えば,渡辺, 2005).ジオ多様性は20世紀後半に発達した環境保全と持続可能な開発の概念や,ジオパークも関わる生物多様性や文化多様性といった概念と密接に関わっている.ユネスコは人類が直面しているさまざまな課題を解決するためにジオ多様性の観点に社会がもっと注目するよう,ジオパークが取り組むことを強く奨励している(ユネスコ,2021).
そこで本発表ではジオパーク活動に関わる4つの重要なトピックス (環境保全,持続可能な開発,生物多様性,文化多様性)について,ジオ多様性との関連性を室戸ユネスコ世界ジオパーク(以下,室戸UGGp)で観察できる実例を挙げてこれらのトピックスの説明を試みる.
【環境保全・生物多様性との関係】
ジオ多様性が産み出す多様な環境は生物多様性を下支えしている.室戸UGGpのエコサイトである奈良師-元海岸は室戸市の中でも数少ない砂浜であり,高知県東部を代表するアカウミガメの産卵場所である.しかしこの数十年間,砂浜は縮小し,アカウミガメの産卵数も減少している.ジオ多様性の減少が環境保全(広大な砂浜環境の喪失)と生物多様性(アカウミガメの繁殖)に影響を及ぼしている実例として捉えることができる.
【持続可能な開発との関係】
ジオ多様性には地表での水の挙動の多様性も含まれる.沿岸に接近・上陸する低気圧との位置関係から,室戸UGGpの東部では西部に比べて著しく降水量が多い.そのため,室戸UGGp東部の佐喜浜川流域の山間部では土砂災害が頻繁に繰り返し発生する.その痕跡のひとつが室戸UGGpの地質サイトである加奈木のつえである.現在でもなお佐喜浜川流域では土砂災害を防止・抑制するための砂防工事が行われており,これはジオ多様性が持続可能な開発に影響を及ぼしている事例として捉えることができる.
【文化多様性との関係】
高知県内では台風などの強烈な風雨から家屋をまもるため,身近な岩石を利用した石塀がよく造営される.室戸UGGpの西部にある吉良川地区では「いしぐろ」と呼ばれる海浜礫や段丘礫を使った石塀が作られている.一方,東部の佐喜浜地区では佐喜浜川流域から産出する「鯨石」と呼ばれる玄武岩を使った石塀が作られている.双方の石塀の形態や色調は大きく異なり,それぞれ独自の文化的景観を作り出している.これはジオ多様性が文化的景観の多様性に寄与している事例として捉えることができる.
【まとめ】
このように,「ジオ多様性」は環境保全,持続可能な開発,生物多様性,文化多様性との結節点にあるキーワードであり,ジオパークのアイデンティティともいえる概念である.例えばIGGP定款には「ユネスコ世界ジオパークは、地質遺産と、地域の自然・文化遺産のあらゆる分野との関連付けを促進し、ジオ多様性が、すべての生態系の基礎であり、景観との人間の相互作用の根幹となっていることを明瞭に示す」とある(JGN国際化WG, 2016).しかし,生物多様性や文化多様性に比べ,「ジオ多様性」の一般社会への普及は著しく遅れている.これは日本のジオパークのコミュニティでも同様であり,「なぜジオ多様性が重要なのか?」といった基本的な命題さえも十分に議論されてない.実際,昨年の第1回国際ジオ多様性の日(2022年10月6日)の前後に何らかのアクションを起こした日本国内のUGGpは3地域に留まった(室戸UGGp,阿蘇UGGp,糸魚川UGGp).「ジオ多様性」が一般社会に浸透するためには,国際ジオ多様性の日制定の決議文(ユネスコ,2021)の中で謳われている通り,ジオパークが率先して普及活動に取り組む必要があるだろう.
【参考文献】
Gray, M., 2013, Geodiversity: Valuing and Conserving Abiotic Nature 2nd Edition. Wiley-Blackwell; 渡辺悌二, 2005,地球環境 10, 125–126; UNESCO General Conference, 2021, Proclamation of an International Geodiversity Day. 41 C/38; JGN国際化WG, 2016,国際地質科学ジオパーク定款 試訳.