日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ45] プラネタリーディフェンス、我々は何をすべきか

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:吉川 真(宇宙航空研究開発機構)、Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、座長:奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)

15:45 〜 16:00

[MZZ45-08] PONCOTS木星衝突閃光観測が明らかにしたツングースカ級天体衝突

*有松 亘1津村 耕司2臼井 文彦3、渡部 潤一4 (1.京都大学、2.東京都市大学、3.宇宙航空研究開発機構/宇宙科学研究所、4.国立天文台)

キーワード:木星、衝突閃光、プラネタリーディフェンス、太陽系天文学、太陽系外縁天体

PONCOTS(Planetary ObservatioN Camera for Optical Transient Surveys)観測システムによって検出・観測された、2021年10月15日に木星表面で発生した天体衝突閃光(図参照)について報告する。外部太陽系の10 mクラスのサイズを持った天体の衝突によって引き起こされている木星衝突閃光は、これまでにもアマチュア天文家によって偶然観測されてきた。しかし、このような偶然の発見によって得られる限られた観測データは、閃光や衝突天体の詳細な特徴を理解するにあたり決して十分なものではなかった。PONCOTSは極めて低予算かつ小口径(0.279m)の観測システムながら、木星閃光の多波長(3バンド)、高ケイデンス(10または40fps)、そして十分に較正された測光データを得ることに史上初めて成功した。観測された閃光の見かけ上のピーク輝度(Vバンドで約4.7等)と極めて長い閃光時間(約5.5秒)は、衝突時に極めて大きな発光エネルギーが放出されたことを示している。発光エネルギーから推定される衝突天体の総運動エネルギーはTNT火薬約2メガトンに相当し、これまでに木星で検出された閃光の推定値よりもおよそ一桁大きく、1908年に地球で起きたツングースカ大爆発に匹敵する。つまり本観測は、ツングースカ大爆発に相当する衝突エネルギーを持った天体衝突の光学観測に成功した史上初の事例である。観測された閃光は、有効温度約8300Kの単一温度黒体スペクトルを示し、明確な時間変動はなかった。これらの放射特性は、地球上でのチェリャビンスやクツングースカ級の巨大火球に共通する特徴である可能性があり、本観測結果はこうした巨大火球放射に伴う人的・物的被害を推定するうえで有用であると考えられる。これまで世界中で実施されてきた木星モニタ観測において、メガトン級の衝突エネルギーをもつ閃光が本例1例のみであるという観測事実に基づくと、木星でのツングースカ級の衝突現象は1年に1回程度、地球での衝突よりも2〜3桁多い頻度で発生していると推定される。さらに本発表では、これまで詳細な研究がなされてこなかった外部太陽系の微小天体の地球への衝突頻度についても議論する。

参考文献: Ko Arimatsu, et al., 2022, ApJL, 933, L5

図: PONCOTSを用いた3バンド観測で得られた2021年10月15日の木星閃光のカラー合成画像。画像の青、緑、赤チャンネルは、それぞれPONCOTS V (波長505—650 nm)、Gh (680—840 nm)、CH4 (880—900 nm) バンド画像に相当する。