日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

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[M-ZZ45] プラネタリーディフェンス、我々は何をすべきか

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:吉川 真(宇宙航空研究開発機構)、Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、座長:奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)

16:00 〜 16:15

[MZZ45-09] 遠地で観測された気圧変動からのツングースカイベントの制約

*中島 健介1 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:ツングースカイベント、大気ラム波、大気掘削

2022年1月に起こったトンガの海底火山爆発では顕著な気圧パルスが発生し、地表面に捕捉されてほぼ音速で伝播する大気ラム波として地球を数回にわたって周回した。このような大振幅のラム波は過去、1960年前後の大規模な大気圏内核実験、1883年のクラカタウ火山の噴火に加えて、1908年にシベリア東部に隕石または彗星(以下、単に隕石と呼ぶ)が落下して下部対流圏で爆発した「ツングースカイベント」でも発生している。本発表では、ツングースカイベントに伴い英国で観測された気圧変動を、ラム波の性質に基づき解釈する。


ツングースカイベントに伴って英国で観測されたラム波の波形(Whipple, 1930, Q.J.R.Meteorol. Soc.)の顕著な特徴は、主要な気圧偏差の符号がマイナスであることである。これは、トンガ火山やクラカタウ火山の噴火や核実験に伴ったラム波の気圧偏差が概ね正であったことと著しい対比を成す。ラム波は分散性が弱く、遠地の波形も波源の性質を素直に反映していることを考えると、隕石が対流圏下部で爆発した結果、全体として負の気圧偏差が生じたことを示唆する。しかし、隕石の爆発地点の近傍では樹木が外側に向かって倒れたことが良く知られており(Jenniskens et al, 2019, ICARUS など)、爆発直後の地面圧力偏差は正であったと考えるのが自然である。圧力偏差が、近傍の直接的証拠からは正、遠地観測からの推定では負となることは、どのように説明できるだろうか。



隕石爆発が火山や核実験と大きく異なるのは、隕石が爆発に先立って大気中を通過した領域が超高温で低密度の wake となり、爆発後に隕石および下層大気の相当の質量が、この wake を通って上昇して上層大気に至るplume を形成した後、数千キロの範囲に飛散し降下することである(例えば Artemieva et al, 2019, ICARUS)。このような plume の形成は、1994年のシューメーカー・レヴィ第9彗星の木星衝突の際にも観測され、またツングースカイベントでも、その直後にヨーロッパの広い範囲で「真夜中にもかかわらず夕方のように明るくなった」との記録からも支持され得る(Whipple, 同上)。この plume の形成から消滅に至る過程を総合すると、隕石の爆発地点近傍の大気下層(高度数キロ)に集中した負の質量源が存在し、大気上層には数千キロの範囲に拡散した正の質量源が存在することになるだろう。このうち前者は、爆発直後の衝撃波などの短い時間スケールの消散・調節過程が終わって、大気が静水圧平衡に戻った後(例えば Bannon, 1995,J. Atmos. Sci.)には、爆発地点付近の数十kmスケールに広がる負の大気下層気圧偏差として落ち着くと考えられ、これがラム波として水平伝播したことにより、遠地で観測された遠地気圧変動の負偏差を生じる。ただし、隕石爆発は大気を加熱することも推定され、この加熱は、火山や核実験と同様に正の気圧偏差を作ることも考慮せねばならない。



本発表では、隕石落下のエネルギーが、plume 形成と加熱に分配されると考えて、励起されるラム波の振幅(と符号)を定量的に見積もる。その結果、観測された圧力変動の様相は、隕石落下のエネルギーの8割程度が plume の形成に使われたと考えると説明できることが分かった。観測波形にはラム波以外の波動の情報も含まれているので、さらに詳細な分析によりツングースカイベントの再構成、また、隕石衝突イベント全般の解明に資する可能性もある。詳細は当日に示す。

謝辞
本研究は JSPS 科研費 JP22K18872 の助成を受けて行った。