09:45 〜 10:00
[PPS07-04] 小惑星リュウグウの形状についての力学的考察
キーワード:小惑星形状、リュウグウ、斜面安定度
小惑星形状は表層進化の過程を体現しており,雪線内側への揮発性物質輸送を考える上でのヒントとなる.自己重力と自転遠心力が支配的な小惑星の平衡形状は,以前は楕円体を想定して議論されていたが,「はやぶさ2」やOSIRIS-RExの探査ではコマ型形状小惑星が見出された.その成因はなお議論されており,小惑星上の物質移動が表層に限定されているのか,内部崩壊を伴うのかを明らかにすることは重要な課題である.
本研究では,重力と遠心力の単純な力学的バランスでリュウグウ形状が記述できるかについて考える.ここで,土壌学の分野で用いられる安全係数(FoS)という指標を用いる.FoSとは,表層物質を斜面にそって滑り落とす牽引力と,法線応力に比例する摩擦力の比で表され,局所重力に対する斜度と解釈することもできる.粒子間の結合力が無視できれば安息角がFoS = 1 (臨界状態)であるが,本研究では結合力も含めてFoSを計算する.また,自転速度が時間とともに変化すれば牽引力が向きを変えることもあり得るので,FoS-1を評価に用いる.引力は,現在のRyugu形状で一定密度を仮定して計算する.
最初に,現在のRyugu形状は過去において臨界状態であったと想定して,自転速度と安息角を変化させながら単位長さあたりの結合力を緯度ごとに計算する.例えば,現在の自転周期7.63時間と安息角40度(砂の代表値)を用いると,結合力が負(反発力)になる.これは,現在の自転速度でコマ型形状が安定であることを意味する.Watanabe et al. (2019)に従って自転周期3.5時間と安息角31度とした場合には,緯度20-65度において一定に近い結合力が得られる.結合力は緯度によらない物質定数であると考えると,この結果はWatanabe et al. (2019)を強く支持するものの,より精度の高い推定が可能であることを示唆する.
次に,自転周期と安息角を自由なパラメータにして,各組み合わせにおける結合力(緯度20-65度)の平均値と標準偏差を計算する.標準偏差の上限を5 x 10-6 m s-2と任意に設定して自転周期と安息角を絞り込むと,現在のコマ型形状が形成されたのは自転周期が3.8~4時間で,リュウグウ表面の結合力は2.5 x 10-6 m s-2以下であると制約される.
表面のスペクトル解析からは極域と赤道域が「青く」,中緯度域が「赤い」ことが分かっており(Morota et al., 2020),極域と赤道域から中緯度域に表層物質の流動があったと解釈されている.本研究では,リュウグウ自転速度の減少が牽引力の符号を逆転させ,高速自転では中緯度から赤道域,低自転速度では赤道域から中緯度域の流れが生じたと理解できる.実際に計算したところ,自転周期4.5時間で南北の緯度10度以下の地域の牽引力が赤道域から中緯度域の方向に向くことが分かった.ただし,FoSは臨界値に達しておらず,自転速度の減少だけでは説明がつかないことも分かった.おそらくは,赤道域に集中している大型クレーターの形成が準安定な赤道バルジの崩壊を引き起こしたと考えられる.
第三に,大型クレーター内部の斜度から,クレーター形成時の自転周期を調べた.Hirata et al. (2020)のクレーターリストから,カテゴリー1~3(クレーターである可能性が高い),且つ,直径が100 m以上の11個を選び,LIDARデータを使って南北方向の傾斜を求めた.この傾斜が安息角に近づく自転周期を求めたところ,ウラシマクレーターの場合なら,4.8~6.1時間とい結果が得られた.ただし,傾斜はばらつきが大きいので,1標準偏差まで範囲を広げると自転周期の制約は4.1~7.6時間となる.これらの結果からクレーターの形成時期を確定させることは困難であるが,上記の推定とは矛盾のない結果が得られた.
本研究では,重力と遠心力の単純な力学的バランスでリュウグウ形状が記述できるかについて考える.ここで,土壌学の分野で用いられる安全係数(FoS)という指標を用いる.FoSとは,表層物質を斜面にそって滑り落とす牽引力と,法線応力に比例する摩擦力の比で表され,局所重力に対する斜度と解釈することもできる.粒子間の結合力が無視できれば安息角がFoS = 1 (臨界状態)であるが,本研究では結合力も含めてFoSを計算する.また,自転速度が時間とともに変化すれば牽引力が向きを変えることもあり得るので,FoS-1を評価に用いる.引力は,現在のRyugu形状で一定密度を仮定して計算する.
最初に,現在のRyugu形状は過去において臨界状態であったと想定して,自転速度と安息角を変化させながら単位長さあたりの結合力を緯度ごとに計算する.例えば,現在の自転周期7.63時間と安息角40度(砂の代表値)を用いると,結合力が負(反発力)になる.これは,現在の自転速度でコマ型形状が安定であることを意味する.Watanabe et al. (2019)に従って自転周期3.5時間と安息角31度とした場合には,緯度20-65度において一定に近い結合力が得られる.結合力は緯度によらない物質定数であると考えると,この結果はWatanabe et al. (2019)を強く支持するものの,より精度の高い推定が可能であることを示唆する.
次に,自転周期と安息角を自由なパラメータにして,各組み合わせにおける結合力(緯度20-65度)の平均値と標準偏差を計算する.標準偏差の上限を5 x 10-6 m s-2と任意に設定して自転周期と安息角を絞り込むと,現在のコマ型形状が形成されたのは自転周期が3.8~4時間で,リュウグウ表面の結合力は2.5 x 10-6 m s-2以下であると制約される.
表面のスペクトル解析からは極域と赤道域が「青く」,中緯度域が「赤い」ことが分かっており(Morota et al., 2020),極域と赤道域から中緯度域に表層物質の流動があったと解釈されている.本研究では,リュウグウ自転速度の減少が牽引力の符号を逆転させ,高速自転では中緯度から赤道域,低自転速度では赤道域から中緯度域の流れが生じたと理解できる.実際に計算したところ,自転周期4.5時間で南北の緯度10度以下の地域の牽引力が赤道域から中緯度域の方向に向くことが分かった.ただし,FoSは臨界値に達しておらず,自転速度の減少だけでは説明がつかないことも分かった.おそらくは,赤道域に集中している大型クレーターの形成が準安定な赤道バルジの崩壊を引き起こしたと考えられる.
第三に,大型クレーター内部の斜度から,クレーター形成時の自転周期を調べた.Hirata et al. (2020)のクレーターリストから,カテゴリー1~3(クレーターである可能性が高い),且つ,直径が100 m以上の11個を選び,LIDARデータを使って南北方向の傾斜を求めた.この傾斜が安息角に近づく自転周期を求めたところ,ウラシマクレーターの場合なら,4.8~6.1時間とい結果が得られた.ただし,傾斜はばらつきが大きいので,1標準偏差まで範囲を広げると自転周期の制約は4.1~7.6時間となる.これらの結果からクレーターの形成時期を確定させることは困難であるが,上記の推定とは矛盾のない結果が得られた.